#48 最後の壁
「家の事はこれでクリアだね。あと、他に素敵な人が現れて…って言うのは、あり得ないので却下で」
「そんな、だって」
「まだ伝わってないのかー。もっとじっくり、俺がどれだけ君の事が好きか、教えようか?」
「つた、伝わってます!アルサン、ワタシノコト、ダイスキ!」
アルのじっとりとした視線を受けたエルザは、急に猛禽類に狙われるネズミのような気分になる。
するりと距離を詰めてきたアルに辟易して、なぜか出てくる言葉もカタコトだ。
エルザはこれでもまだ、アルの言うことは全くの夢物語に感じていた。
2人の間には、乗り越えるのが大変そうな、高い高い壁が、何枚も立ち塞がっているのだ。
「私、なにも知らないんですよ?貴族の方のマナーや、社交の仕方も…」
「俺は、騎士を辞めるつもりないから、社交はいらない。マナーだって難しいものはないし、今のままでエルザは何も問題ないよ」
「平民の私をむ、迎えたなんて、悪く言われたり…」
「似たようなこと前にも言ってたね。家族は俺とおんなじだから、言わせておくか、ひどいときは蹴散らすだろうね。もちろんエルザの事は、家の総力をあげてお守りします」
「家族はマギーだけです。親ももういません」
「それこそ何も問題ないよ。俺はエルザと一緒に居たいんだもの。もちろん師匠もだけど」
「店のことだって」
「続けないの?今まで通り、俺も手伝いたいな」
「う、うう…」
「さぁ、まだあるかな?」
アルはなぜか楽しそうに、エルザの問に次々回答していく。
壁が高いと思っていたのは、エルザだけだったようだ。
店の話まで捻り出したのに、なんの躊躇もなく、エルザにとって最善の答えがあっさりと返ってくる。
けれど、最後の壁だけは……乗り越えるのが、怖い。
アルは、なにも言えなくなったエルザの手を取り、静かに、言い聞かせるように話し出した。
「エルザが不安に思うことは、どんなことでも、俺が無くしたい。出来ないなら、どうしたらいいかを2人で悩むことは出来る。答えが出なくても、その不安を一緒に背負っていけばいい」
アルが親指で、エルザの手を優しく撫でる。
アルの言葉の頼もしさと、優しい手の心地よさが、エルザの迷いを流してしまうようだ。
「ただ、これは全部、エルザの気持ち次第だ。君の心が俺になくて、俺を望まないなら……辛いけど、それは、もう、どうにもならない…」
「私の気持ち……」
「うん。それ以外のことは何にも考えないで。何も心配いらない。君の気持ちだけを知りたい」
アルがエルザの手を、自分の胸に押し当てる。
ドッドッドッ…と、せわしなく鳴っている心音が、まるでドラムロールのように伝わってきた。
期待と不安を混ぜこぜにしながら、エルザの答えを待っている。
何かあったら、アルと一緒に考えよう。
怖いけれど、このままでは前にも後ろにも進めない。
「…アルさん、私」
「うん」
「私、私が、アルさんの」
「うん」
「………私が、好きって言ったら、アルさんの体調、悪くならない……?」
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