#46 祈りのような
「エルザと日々を過ごす中で、好きになったんだ。君じゃなきゃ、ダメなんだよ」
大きな手が、エルザの手を優しく握りしめる。
この手は、いつもこうして大事に大事に、エルザを包んでくれた。そんなことを思い出したエルザは、胸が締め付けられる。
「だけど、少し前まで女性が苦手だったのに、そんなこと言っても信じられないって、エルザの気持ちもわかるんだ」
包まれた手は、ゆっくりとアルの額に運ばれる。
エルザの両手に祈りを捧げるように目を閉じて、アルが呟く。
「だから、俺の気持ちが本物だって、全力でわかってもらうようにするつもり。だから…」
エルザはふと、いつもは暖かいアルの手が、とても冷たいことに気がついた。
彼はエルザに、信じて貰おうとと必死なのだ。
エルザが否定した彼の恋心は、まやかしではないのだと。
エルザはもう、アルの心を疑おうとは思わない。
どこまでも誠実に、エルザの事を大切に想う彼の気持ちは、もうとっくに彼女の胸に届いているのだから。
「……アルさんの気持ちは信じます。…でも…一緒にはいられないよ……」
掠れた声しか出ない。こんなこと、言いたくない。
アルの甘くて優しい言葉に溺れていられたら、どんなにいいだろう。
笑顔で伝えたいけれど、上手く笑えている自信はない。
小さな声に、アルが顔をあげて、弱気な笑みを浮かべるエルザをじっと見つめた。
「……どうしてそう思うか、教えて?」
「私は平民で、アルさんは…、貴族です。お家の事があります」
「……うん」
「お互いに好きで、一緒にいることを望んでも、添い遂げることは出来ないでしょう?」
「お互い……添い遂げる……?」
「もう女の人も平気になったし、いつかアルさんは、同じ貴族の、素敵な人に出会って、幸せになれます。私とは、…離れなきゃ…」
「…う、ん」
「一緒の時間が長ければそれだけ、別れが悲しくなります…」
「それが理由で、一緒にはいられない、てこと?」
笑顔を繕えなくなったエルザが小さく頷いて、そのまま目線を落とした。
それとは対照的に、アルは頬を紅潮させて、何か期待に満ちた表情を見せている。先程までの切なげな様子はどこに行ったのか、微塵もない。
「よし、それが理由なんだね。逆にそれがなければ、いいってことだよね…」
「アルさん?」
ブツブツ呟く彼の言う事が聞こえなくて、首を傾げるエルザに、アルは意味深に微笑む。
「エルザがそんな心配しなくてよくなるように、いろいろと考えてたんだ」
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