#40 無罪放免?
魔王…もといアルが、部屋の中にふわりと降り立つ。
マギーを優しく床へ下ろすと、フィリップとエルザの方へゆっくりと進み、抜剣した。
切先はゆるりと弧を描いて、まっすぐにフィリップの鼻先に向けられた。
「離れろ」
「…ひっ…」
威圧され、ふらついた足が絡まり、フィリップは尻餅をつく。
顔面は蒼白で、腰が抜けたのか、そのままの体勢で後ずさる。
チキ…、と小さくサーベルが鳴り、フィリップの喉元に突きつけられる。
「フィリップ・バックス。貴様を捕縛する」
アルはエルザを背中に庇うように立ち、静かにフィリップに告げた。
フィリップは、鬼気迫るような『魔王』の気配が無くなったからか、冷静な騎士としてのアルを軽んじるようにへらりと笑う。
「…おや、騎士殿の登場か。こん」
「口を開くな。粉微塵になりたいか」
鋭い刃に殺気がこもり、言葉を遮られた。
サーベルが自分の眉間まで引き上げられ、フィリップはギョッとしてのけ反る。
その時、バタバタと足音がしたかと思うと、部屋の扉が思い切りよく開き、騎士服姿の男性が数人なだれ込んできた。
「わ、アル!待て!早まるなぁ!」
その中から、慌てた様子のロイが飛び出して、アルの所に駆け寄る。室内の惨状に目をやると、ゲンナリした表情になる。
「あ~あ~、どうすんのこれ。壁ないじゃんか」
「コイツがエルザに触った。人命救助優先だ」
「…お、お前ら!こいつを止めろ!」
話ができそうな奴が来た、とばかりに、フィリップがロイに照準を合わせたようだ。
ロイはちらりとフィリップを一瞥すると、彼と同じ目線になるようしゃがみこんだ。
「バックス卿、あなたに、誘拐監禁の疑いがあるので、我々とご同行いただけないだろうか?」
「婚約者の女性を招待していただけだ!しつれ」
「おぉい!…頼むからこれ以上刺激すんなよ…」
ロイがフィリップの言葉を止めて、俺たちの苦労も考えてくれ、などと小声でブツブツ溢している。
先程から事あるごとに話を遮られるフィリップは、わかりやすくイラつき始めた。
髪の毛が総毛立ちしそうな怒りを隠そうともせず、魔王アルがフィリップを見下ろした。
「あきらめて罪を認めろ。魔法薬の製作と使用でも逮捕状が出てるんだ、逃げられる訳がない」
「……逃げられるさ」
アルの最後通告に、フィリップはニタリ、と嫌な顔で笑う。
「…俺には王宮の上層部に協力者がいる。お前らごときが何をしたところで、明日には晴れて無罪放免だ!」
御覧いただきありがとうございます
よろしければ評価、ブックマークをお願い致します




