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#4 友人たち(1)




「いいですか、あなたには私のようにかわいらしさが見込めませんので、誠意でカバーするんです。『いらっしゃいませ!』」


「いらっしゃいませ!」


「もっと爽やかに!もう一度!」


「いらっしゃいませぇ!」


「2人ともいいかげんお茶にしましょうよ」


「エルザ!お茶は私が!」


「ありがとう…エ……………魔女殿」



アルが店の手伝いに来るようになって1ヶ月。


通常、客の素性について深く詮索することをしないのだが、今回は店で働くということで、大まかに確認することにした。


彼は貴族で、3人兄弟の末っ子、年はエルザの1つ下の21才だという。

アルが貴族とわかったとき、思わず膝を落としそうになったエルザを慌てて止めたアルは『お願いだからこれまで通りにしてほしい!』と拝んできたのだ。

最終的に『店にいる間は何があっても俺の責任でいいから!』と半ば無理やり合意させられた。

怒られた子供みたいにしょぼくれた顔をしているアルに、絆されたのかもしれない。


しかし、アルがいくらそう言っても、貴族が平民の店で働いている、などと悪しざまに噂する人は少なくない。

対策として、魔道具のローブで髪の色を鳶色に変えて、一目でアルだとわからないようにしている。


奥の部屋での休憩中、いつも通り3人でお茶をしていた。

エルザは指導に熱が入りすぎのマギーに釘を刺す。



「マギー、何度も言うけど、アルさんはお手伝いだけなんだからね。」


「いけませんエルザ!お手伝いだろうがなんだろうが、お客様をお迎えする側にいるんですからね!」



エルザにきゅるっと顔を向ける。首も可動式のようだ。

何があっても、店のことについては譲れない!という彼の熱は暑苦しい。


そして、ここに熱い男がもう一人。



「師匠のいうとおり、手伝いだからと手を抜くつもりはないよ」



紫の瞳がメラメラと、意欲に満ちあふれている。

困ったことに、こちらの熱量もなかなかのものだった。



「むしろ極めたい、と思ってる」


「極めてどうするんですか」



苦手克服のためという大義名分のもと、エルザの店で手伝いを始めたアルは、その仕事にすっかりハマってしまったようだ。


カウンターの仕事全般をはじめ、掃除や倉庫の整理、薬草畑の水やりなど、マギーの右腕となって働いている。

騎士の仕事が休みの日しか来てないのに、エルザよりも動けますよ、というのはマギーの言。

アルは仕事の出来る男だった。


マギーを『師匠』と呼び出したときは、流石にどうなんだと意見したが、聞き入れてはもらえない。


目的覚えてますか?あなた騎士なんですよ?休みでしょと、今日も心のツッコミが冴え渡る。



「素晴らしい。君のやる気に期待していますよ」


「ありがとうございます!師匠!」



アルの手を、てしてし叩いているのは激励のつもりなのか。

叩かれている方もニコニコと嬉しそうにしている。

まぁ本人達がいいならいっか、と、残っていたお茶を飲みほした。


カララン、と来客を告げるドアチャイムが聞こえる。



「俺が行くよ」



入り口に近かったアルが立ち上がり、カーテンをくぐる。

それを見送るエルザには懸念があった。



一番の目的である『女性に慣れる』ことも、順調である……多分。

というのは、はっきりと改善されている、という確証がもてないでいるためだ。


店に来る客は、アルに眼を奪われても、その後はチラチラと遠巻きに見ているため害はない。

それでも結構な視線を浴びていたので、体調を心配したが、本人はこれくらいならなんでもないよ~と、けろっとしていた。

普段はどれだけ注目されてるのだろうかと、エルザの心配が増えた。


普通に女性と話す、ということならお客様ともエルザともできているけれど、苦手とする肉食系の女性との接触がまだないため、見極める事が出来ずにいた。


いっそのこと夜会に出てみては?とも考えたが、荒療治感が否めない。さすがにいきなりはないだろう。


その辺お守りはどう効いてくるのかしら?…と考えていると、店の方から大きい声があがる。

何かのトラブルだろうか、エルザは急いでカーテンをくぐり店に出た。



「エルザー!エルザ!なにこの男ー!!」



プラチナブロンドの長い髪を後ろでひとつに束ねた美麗な女性が、カウンターに詰めよっている。

アルは両手を挙げた姿勢で、女性に胸倉を掴まれていた。

なすがままにユサユサと揺すられながらも「いや」とか「あの」とか、何か発言しようと頑張っていた。

その光景に呆気にとられているエルザに、焦りの表情の女性が声を掛ける。



「エルザ、無事!?」


「とにかく手を放して。ドロシーが思ってるようなひとじゃないよ。」



ちら、とアルの様子をみると、笑顔のままで固まってしまっている。

ひとまず2人を離そうと、間に入ろうとしたその時、線の細い男性がドロシーの後ろからヒョコっと顔をだした。



「まぁまぁ、ドロシー、まずは落ち着こうか。」



男性は彼女を落ち着かせるように肩に触れ、抱き寄せると、ゆっくりと宥めるようにドロシーを諭す。

癖のある栗毛色の髪とかわいらしい顔立ちが、まるで天使のように見える。



「エルザちゃん久しぶり。そっちの彼もごめんねぇ、僕のドロシーが驚かせちゃって」


「カ、カ、カイン、ち、ちか……近」


「大丈夫よ、久しぶりだねカイン、ドロシーも。」



エルザがカインと呼ぶ男性は、ニッコリわらってそれに応えた。

ドロシーは、いつの間にかカインに抱え込まれるようにぎゅっと肩を抱かれていて、頬がくっつくほど近くに顔がある。

先ほどまでの勢いはすっかり消え、真っ赤な顔でアワアワと狼狽えている。

カインは穏やかな表情をそのままに、感極まったかのような感嘆の声をあげた。



「エルザちゃん……よかった…、いい人ができたんだね~」


「は?」


「んん?」





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