#39 魔王降臨
「…これは…?」
何かがぶつかったような衝撃の後、ゴ、ゴゴ…と、地鳴りのような音が部屋に響いた。
攻撃を受けているんだ、エルザは身がすくんだ。
大きな岩が動くような音に、壮絶な逮捕劇に巻き込まれるなんて嫌だと、ぎゅっと目を瞑る。
ふわりと、部屋の中の風の流れが変わった。
大きな窓が開いたときのように、空気が外に吸い込まれていき、新鮮な外気が勢いよく入ってきた。
何が起きたのか、ゆっくりと瞼を開くと、その衝撃的な光景に目を丸くする。
雲ひとつない、綺麗な青空が見える。
窓から、ではない。そのまま、そこに広がる景色だ。
エルザは思わず、こういう造りの建物だったかしらなどと、ふざけた事を考えたが、もちろんそうではない。
部屋の窓側の壁一面が、きれいさっぱり消え失せていた。
外から入る風が暴れまわり、部屋の中は嵐のようだった。
「んな……、なんだこれはぁ!」
フィリップががなると、すぅ…と凍りつくような緊迫感が辺りに漂う。何かに睨まれる様な視線が、全身にへばりついてくる。
――――――――もしかして、これは、きっと!
エルザは、希望と予感をごちゃ混ぜにして、視線の主を探すべく、青空に目を向ける。
黒いマントと、かっちりとした騎士服を身に纏い、細身のサーベルを帯剣したアルが、青空を背に浮かんでいた。
―――――――アルさん!
来てくれた!ずっと会いたかった!
これまでの不安が、パチパチと泡のように消えていく。
エルザの想いが急に高まって、視界がぼんやりと滲む。
しかし、それはまだダメだ。エルザはグッとそれを堪える。
『アルさーん!』
叫んだつもりが、自分の声が聞こえない。
はくはくと口を動かすが、彼の威圧が凄すぎて、声が出ないようだ。
目を合わせたらきっと砂粒にされる、というくらい眼光鋭く、漂う気配は不穏で禍々しい。さながら『魔王』のようだ。
よく見ると、魔王が小脇に何か抱えている。
それを凝視したエルザは、ハチミツ色の毛玉がモゾモゾ動いているのがわかり、ホッとした。
マギーだ。動いてる、良かった。
彼の無事を喜ぶエルザの耳に、そのマギーから、ギリギリギリ…という、歯軋りのような音が入った。
おかしい、マギーにそんな音を出す要素はないはずだ。
よく耳を済ますと、古い言葉で呪詛を呟き続けている。
怖い!
助けに来てもらっておいてなんだけど、私が怖い!
エルザは、これまでの感情とは別の不安が湧いてくるのを感じていた。
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