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#38 狂気と崩壊




「おい魔女!この人形を壊されたくなければ薬を飲め!ここから逃げられるようにどうにかしろ!」



もう偽るつもりもないのか、フィリップの整えられた髪は酷く乱れ、挙動や言葉も暴力的で、美しく紳士的だった姿は見る影もない。

化けの皮が剥がれる、とはどこの言葉だったか。

エルザはフィリップに向き直り、深呼吸する。



「わかりました。彼女達を解放したら薬は飲みます」


「エルザ様!」



エルザの圧に一瞬怯んだフィリップは、すぐに体制を立て直し、エルザの言葉を一蹴する。



「飲んだらすぐに渡してやるよ、目的はそれだけだからな」



ニヤニヤといやらしく笑い、フィリップは液体の入った小瓶をエルザに手渡した。

エルザは迷わず瓶の蓋を開け、中の液体を一気に呷った。



「ハハ、ハ、飲んだ…、飲んだな!」



その様子を、固唾を飲んで見つめていたフィリップの口角が上がり、ジワジワと笑みの形を作っていた。



「見たか!ぼ、僕はこんな所じゃ終わらないぞ!…やった!魔女を手に入れた!」



フィリップは、明らかに狂気をはらんだ眼差しで、エルザへと近づいた。

エルザは頭を上げて、虚ろな様子でフィリップへ話しかける。



「フィル様、外の様子を確認しようと思いますがよろしいでしょうか?」


「……あぁ、もう薬が効いているのか?そうだな…いいだろう。どうやったら逃げられるのか、ルートの確認もしろ」


「かしこまりました」



エルザの体が淡く光り、飲み込まれていく。だんだんと輝きが増して、眩しくて目を開けていられなくなる。

あまりの光の量に、フィリップは急激に不安に襲われて、エルザの魔法を止めようと声を荒げる。



「お、おい!なんだこれは!まだかかるのか!?」


「いえ、もう終わりです」



エルザはいつの間にか、デイジーとマトリョーシカを抱えて、フィリップの背後に立っていた。



「……お前…!どういうつもりだ!」


「どうもこうも、お約束でしたから。彼女達は私に預けて下さるんですよね?バックス商会長?」


「……なぜだ!薬は…?飲んだじゃないか!」


「あなたにお伝えする義務はありません。もう諦めたらいかがですか?」



薬が効いていない事を知り、フィリップは愕然とする。

追い詰められたフィリップは、エルザの言葉に激昂し、その手首を強引に捻り上げた。



「まぁいい、こうなったらお前は人質だ。来い!!」


「離して!」



エルザが痛みに顔を歪めた瞬間、部屋が揺れた。






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