#36 フィリップ
「やぁエルザ、おはよう。よく寝られたかな?」
「おはようございます。早く家に帰してください」
「昨日はすまなかったね。どうしても外せない仕事があってね。私としては夜を共に過ごしたかったのだけど」
「彼女達のおかげで、大変快適に過ごせました。あなたがいなくて良かった。もう帰ります」
翌日、目が覚めたエルザに、フィリップが戻っているとデイジーから報告を受けた。話したいと伝えると、朝食後すぐに場が設けられた。
マトリョーシカ達が化粧と髪のセットをして、着たことのない繊細な生地のワンピースを着せられて、デイジーに応接室の様な部屋に案内され、今に至る。
「僕は、君の力を必要としてるんだ、エルザ嬢」
テーブルを挟んで向かいに対峙するフィリップは、いつも以上に余裕が感じられる。自分のテリトリーだからこそのものなのか、それとも何か策があるのだろうか。
負けるわけにはいかない、エルザは気を引き締めた。
「君のお守りの力、ひとつひとつはとても小さい。しかし数が多いね。僕の言いたいことわかるかな?」
「あなただけにお守りをつくれということ?」
「まぁ、簡単に言うとそうだ。しかしそれだけじゃない。君は少しだけ予知の力を持ってるね?」
フィリップが、ぐい、と身を乗り出して来た。その表情はにこやかだが、エルザにはとても怪しい顔にしか見えない。
「それも使って、僕を儲けさせる。その二つだ。簡単だろう?」
「そんなことできません」
「うまくできれば、なに不自由ない暮らしを約束しよう。この部屋からは出してあげられないけれど、君が楽しく過ごせるように尽力する。あぁ、たまになら僕が可愛がってあげてもいい」
フィリップはニヤリと、色気たっぷりにエルザを一瞥する。ぞわぞわと不快な鳥肌が止まらないので、やめていただきたい。
「……禁止されている魔法薬を使うような方に、協力することはできません」
「…おやおや、知っていたのかい?意地悪だね」
見透かしていたかのように薄く笑うフィリップは、上着の内ポケットから液体入りの小瓶を取り出した。
「君の意思は尊重したかったのだけど…仕方ない。この薬を飲んでもらうよ」
「…何ですか」
「服従の薬だよ。僕の言うことをよく聞いてもらうための薬だね」
おすすめのデザートを紹介するくらいの明るさで、物騒な話をしはじめた。固まるエルザに構わず、フィリップは話し続ける。
「飲めっていっても、なかなか難しいだろう?君が飲みやすいように、用意したものがあるんだ」
フィリップは、とても楽しそうに足元のバスケットを開けると、古い木製の入れ子の人形をテーブルの上に置いた。
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