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#35 人形たち(2)




「フィリップ様は、禁薬を使ったのではないですか?」



デイジーから息を飲むような気配が漂う。

これでは言葉はなくても、認めているようなものだ。



「…彼は、いつ戻ってきますか?」


「……明日には戻るかと。主人から直接ご確認下さい」


「わかりました」



美しい所作で一礼するデイジーの横から、マトリョーシカ3姉妹の1人がひょこっと出てきた。軽くお辞儀をすると、手に持っていた皿をエルザの目の前に置いた。

真っ白い陶器の皿に、一口サイズのサンドイッチがセンスよく盛り付けられている。エルザに思わぬ笑みがこぼれた。



「とてもキレイ。ありがとうございます。作ってくださった方にもお礼を伝えてください」


「…優しいお言葉をありがとうございます。それは、この子達が調理をしたものなので、大変光栄に思っているようです」



やんごとなき方々が食べているような、オシャレで華やかなサンドイッチを、この可愛らしい子達が作ったなんて…。

ゆで卵とチーズが挟んである物を手に取り、口にしたエルザは感嘆して、キラキラと眼を輝かせた。



「こんなにオシャレで美味しいサンドイッチは食べたことないです!これを作れるなんて、あなた達はすごいのね!」


「あ、ありがとうございます……」



興奮して捲し立てるエルザの勢いに、圧倒された彼女達から、照れくさいような、ホンワカした空気を感じた。マトリョーシカの1人は、頬が赤く染まっているようにも見える。


そんな様子を見ているエルザは、少しホッとしていた。

まるで冷えきった冷たい体に、じわりじわりと血が巡っていくような感覚。

こんな非常事態におかしいけれど、エルザは間違いなく、彼女達に好感を抱いていた。






「では、我々は別室で待機しております。何かありましたらお声掛け下さい。おやすみなさいませ」


「ありがとうございます。おやすみなさい」



彼女達が部屋から出ていくと、広い部屋は途端にがらんどうに感じる。彼女達が鎧戸とカーテンを閉めてくれたので、ろうそくの灯りだけがボンヤリと浮かんでいた。

エルザはふかふかのベッドに寝転がり、様々に思いを馳せる。


マギーとエルザの魔法が発動せずに消えたのは、おそらく例の魔法薬のせいだろう。まだ魔力が完全に戻った感じはしないが、体の変調はだるさだけだ。



「マギーも、大丈夫だといいな…」



帰る。生きてさえいればきっと大丈夫。

きっと誰かが気付いてくれる。

店の様子がいつもと違うと、近所の人が訪ねてくれるかも知れない。



「アルさん、戻ってきたかな……」



すぐ戻る、と言っていたアルはどうしただろう。

戻って、異変に気付いただろうか。いや、出掛けて留守にしているとでも思うかもしれない。

もしかしたら、嫌になって店に戻って来なかったかも―――



「ダメだ!今はここを出ることだけ考えるべきだわ!」



まずここを出なければ、マギーの安否を確かめることも、アルに謝ることも出来ない。

弱気になってる場合ではない、明日には諸悪の権化と話をしなければならないのだ。



まずは体力回復!とばかりに、エルザはベッドの中に潜りこんだ。








御覧いただきありがとうございます


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