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#34 人形たち(1)





「私は、元々がビスクドールと呼ばれる人形でございます。主人の力でこのように姿を変えております」


「……あちらの彼女たちも?」


「彼女達の元は、マトリョーシカという入れ子の人形です。話すことはできませんが、意思の疎通は可能です」



じっと壁際に待機している3人が、お辞儀をする。

よく見ると、彼女達はデイジーに比べて、幼さが残っている。綺麗と言うよりも、可愛らしい、という言葉がしっくり来る。

彼女達に目礼して、エルザはデイジーに詰め寄った。



「デイジーさん、私は家に帰りたいのです。ここから出る方法は教えて貰えませんか?」



デイジーは気の毒そうに俯いている。

表情はやはり同じで、グリーンの瞳は揺らぐこともない。



「申し訳ありません。それについてのご相談はできかねます。主人の言いつけに背くことは出来ないのです」


「ですよね。言ってみただけだから気にしないで下さい」



気落ちするデイジーに、エルザは明るく声を掛けた。


彼女はエルザに同情的なようだ。こちらに危害を加えるような様子もない。

それがわかっただけでもエルザの心にゆとりが出来た。

どこかマギーを彷彿とさせる彼女達を、敵という認識で見たくなかったのだ。

先程からパタパタと、マトリョーシカの三姉妹がお茶の準備をしてくれている。それを眺めながら、デイジーにこれからの事を聞いてみる。



「私はどうしたらいいのかしら?」


「お腹は空いてらっしゃいませんか?いつお目覚めになってもいいように、食事の準備は整えてございます」


「じゃあ簡単に摘めるものをお願いします。それと、私はどれくらい寝ていましたか?」


「まる1日と少しでしょうか?今はいらした日の翌日の真夜中です」


「真夜中?」



エルザはデイジーを訝しげに見る。

窓からは陽の光が入り込んでいるし、窓から見えるのは青空だから。どう転んでも真夜中の景色ではない。

エルザの視線に気付いたデイジーが、おずおずと説明を始める。



「ええと、それも主人の魔法で…認識阻害の魔法です」


「なるほど。ではこの景色は魔法で作られた物なんですね。この建物がある場所を特定されないように、というところですかね」


「私からは、なんとも……」


「さっきから魔法が使えないので、これもどういうことか理由を聞きたいんですが…」


「…申し訳ありません」



デイジーをまた困らせてしまった。これはエルザの本意ではないのだけれど。

もっと困らせる話をしなくてはならない。


今回の事件について、確信を得たことがある。

エルザは、これまた上質なソファーに腰を下ろした。



「フィリップ様は、禁薬を使ったのではないですか?」





御覧いただきありがとうございます


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