#31 解雇
「まず、どうして急にそんな話になるの?」
テーブルを挟んで向かいに陣取るアルから、強めの視線が送られてくる。
『商売の邪魔になる』と、マギーが2人を奥へ追いやった。
アルからエルザへの抗議の姿勢がとても厳しく、尋問を受けているようで、エルザは小さくなっている。
「解雇理由をはっきりさせてもらわなきゃ。俺なんかやらかした?」
解雇とか、そういう問題ではない。わかっているのか。
喉元まで言葉が出てきたエルザは、立場と状況を考えて口をつぐむ。代わりに首をブンブンと横に振った。
「アルさんのお悩みが解決するまで……そういうお話でした。」
「……それは。……はじめはそんな理由かもしれないけど、俺、今はここに…エルザと一緒に居たい」
エルザの心臓がドクンと高鳴る。嬉しくて泣きそうだ。
『嬉しい、私も』と、エルザの胸の奥で小さな声がした。
表に出せない、本当の気持ち。
「あなたは、もっと沢山の人と出会うべきです。ステキな人がきっと見つかります」
「もう見つかってる。俺は君のことが」
「そう思うのは、私が一番身近にいるからです」
エルザがアルの言葉を遮る。それを聞いたら決心が揺らぐ。
俯きながらも、しゃんとした声で言葉を絞り出した。
「女性嫌いが治まったときに私がそばにいたから、そう感じたんです。その気持ちに捕らわれないで」
アルは放心した様子でエルザを見つめる。
しばらくぼんやりとそのままだったが、小さく息を吸う音がした。
「ひどいなぁ。エルザ、俺の話も聞いて?」
切な気な優しい声。
声色に引き付けられるように、エルザはゆっくり顔を上げた。
「それは君の思っていることでしょ?俺の気持ちは俺のものだ。いくら君にだって決められる訳にはいかない」
「あ……」
「ただ、君がどう考えてるのかわかったし、俺にもやることがあったなって」
エルザは、自分の気持ちを押し付けていた事に気がついた。これまでは、アルがどう思うかを考えてきたのに。
これでは彼が嫌悪していた令嬢達と同じだ。
エルザはガックリと項垂れる。
「ついでに、ちょっと頭を冷やしてくる」
「あ、アルさん!」
くるりとドアの方へ向かうアルを引き留めたエルザは、ペコリと頭を下げた。
「勝手でした、それはごめんなさい。でも、さっきの話は考えて下さい」
「……少ししたら戻るよ」
アルはエルザの方を振り向くことなく、店を後にした。
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