#3 提案
「方向性を決めましょう」
お守りの強化について、2人の作戦会議が開かれている。
個々のお悩みに特化したお守りを作るには、細やかな打ち合わせが必要だとエルザが言う。
「この間のよりも強めのお守りにするなら、目標を考えておいた方がいいですね。
こうなりたい、とか、具体的であればあるほどいいんですけど」
漠然とした願いよりも、具体的に思い描けるような願いの方が、お守りも効きやすく、作りやすい。
エルザは普段、客が願いや悩みをどうしたいのか、イメージを膨らませるようアドバイスしている。
アルは先程から、う~んと唸りながら思案していた。
「具体的に、というのは結構難しいもんだね。」
「そうでもないですよ、大丈夫。『モテたい』とか『恋人がほしい』とか、『結婚したい』とか?そういう感じで」
「それは……いきなり目標高くない?」
この短時間で、2人の会話は砕けたものにどんどん変わっていった。
アルは苦手解消へのわずかな希望が繋がったという安堵から、エルザは先程のアルの笑顔の無邪気さに、それぞれこれまでの緊張から解放され、一気に親近感を持ったようだった。
「女性が平気になるってこと自体、少し前までは考えられなかったんだから……恋愛とか、結婚だなんて、想像出来ないな」
「あぁ、なら、お友達ならどうです?」
ハイレベルな目標を掲げられ、気後れしたアルを見て、エルザはすぐさま、ハードルを下げた提案をだした。
モチベーションを下げてしまっては大変だ。
「……お友達…」
「はい、お友達というか、男性と同じように構えずに接することが出来るように、とか」
「なるほど……うん、それくらいでちょうどいい。それで頼めるかな?」
「ありがとうございます!」
商談成立。
エルザは言うまでもなく、アルの顔にも喜びの色が浮かんでいた。
待ってましたとばかりに、マギーが例のごとくテーブルに登り、すっかり冷めた紅茶を入れ直…ではなく、新しい物を魔法で出してくれた。
アルは、この一連のボワン!にも慣れちゃったな、としみじみする。
エルザは姿勢を正して、首にかけていた深い青色のペンダントに手を当てている。
「あと、ちょっとだけ視てみますね」
「視る?」
「はい。予知とかそんな大層なものじゃないんですけど、このまま進めて良いか悪いかを占うんです」
エルザがスッと眼を閉じる。
この予知能力とまじないの力をあわせ持つことこそが、魔女の条件なのだ。
胸元のペンダントを中心に、ふわりとした光の粒が波のように広がり、エルザの体を包み込んだ。
アルは、優しい光を纏ったエルザの神秘的な姿から目を離せない。
―――――アルさんがいる、おひさまの光の中に、優しくて暖かくてキラキラ、嬉しそうに、何て幸せそうな笑顔、手に何か持って、大事そうに、あれは、前に渡した、開運の―――
フッと、エルザの光が消えた。
う~ん、と少し考えて、エルザが口を開く。
「ひとまず、お守りは今のままのが良さそうですね。」
占いの様子に見とれていたアルはハッとして眼を逸らした。
そのまま、これ?と言うように、開運のお守りを持ち上げた。
「はい。それがアルさんにあってるのか…とてもいいイメージなので。少しずつ女性のいる場に慣れることから始めるといいかもしれない。体調のこともあるし、ゆっくり様子をみましょうか」
「…うん、それでいいよ。全ておまかせしよう」
アルが穏やかに頷いた。
これで、苦手克服の為の第一歩を踏み出せる。
「ちょっと楽しくなってきたぞ」
アルはへへ、と顔を緩めてのんきに呟いた。
エルザは占いの中で見たアルの姿を思い出す。
あまりにも幸せに溢れて、こちらまでフワフワと嬉しい気持ちが湧き上がる。
――――あの笑顔をもっと見たいと思ったなんて、口が裂けても言えないわ。
そんな考えを気まずく思ったエルザは、それをごまかすように口を開く。
「楽しみですね。慣れてきたら店の手伝いでもしてもらおうかな」
思わず、ヘヘッと乾いた笑いが口から漏れる。
頭のフワフワがまだ抜けきらないのか、自ら失笑するほどの冗談を口にしてしまった。
自分に呆れるエルザが目にしたのは、キラキラと紫の眼を輝かせる男の楽しそうな顔だった。
「それ面白そう!」
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