#27 護衛と鍵
その後、ドロシーの手紙を見たカインが合流した。
今回、対象の薬は散布するタイプの薬で、散布された箇所の浄化は、調査を行った商会の働きによりほぼ完了したという。
ジョシュの魔道具も、偶然漂って来た薬が作用したのではというカインの見解に、アル達は納得する。
しかし万が一、目的があったのなら―――アルは、エルザの身が心配でしょうがない。
警護の点であまりにも無用心だと、自ら護衛をかって出た。
はじめは断っていたエルザだが、カインの助言もあり、アルに一晩店に残ってもらうことにした。
みんなで夕飯を食べて、ドロシーとカインが帰った後、奥の部屋のいつものテーブルで、アルはエルザを必死に説得していた。
「野営する。大丈夫、慣れてるから」
「居てもらうのにそれは申し訳ないです。私のベッドで寝てもらうのがいいんだけど…」
「ダメ。それ、絶対ダメ」
「私、ソファで寝るから、大丈夫ですよ?」
「うん、そうじゃないんだ。俺がいろいろダメで、更にダメになりそうだからダメ」
よくわからないけど、もしかすると他人のベットはイヤなのかな?などと、あさっての方へ考えが向かったエルザは、しぶしぶアルのベット行きを諦める。
協議の結果、アルはソファで、エルザが自室で寝る事が決定した。
アルは最後まで店の外、建物の外に行くと譲らなかったが、『じゃあ私も外で寝る』というエルザに、とうとう根負けした。
アルを浴室に案内して、エルザは自室から上掛けのキルトと枕になりそうな大きめのクッションを移動させ、ソファをベットのように仕立てていく。
護衛として居てくれるアルには悪くて、とても言えないが、エルザはこの状況を少し楽しく感じていた。
もちろん何をするわけでもないけれど、日常の中に愛しい人がいるだけで、心が浮き足立つのを感じる。
気持ちは決して表に出さないように、エルザはこっそり一人で嬉しさを噛み締める。
アルが浴室から戻ると、いつもの部屋が寝室のように整えられていた。
「じゃあ私もお風呂に入って、そのまま部屋に戻りますね」
「うん。エルザの部屋に何かあったらわかるようにしてあるから、ゆっくり休んで」
「本当にここで大丈」
「絶対大丈夫。なんなら寮の寝台よりも寝心地良さそうだよ。準備ありがとう」
「ならいいんだけど…」
アルは、エルザの言葉に被せる勢いで捲し立てる。どうあってもエルザのベットで寝るのは避けなければならない。
「じゃあ、騎士様、よろしくお願いします。おやすみなさい」
「おやすみ、エルザ」
なんてことない寝る前の挨拶もくすぐったくて、とても嬉しく感じる。浴室に向かうべく背を向けたエルザに、アルが呼び掛けた。
「そうだ、部屋の鍵、きちんと中から掛けておいてね。」
「でも、結界があるなら大丈夫じゃないんですか?」
「鍵ってね、いろいろな抑止に繋がるんだよ」
「抑止…?」
「……誰が、君の部屋に入るかわからないでしょ?」
振り返ったエルザが見たのは、笑顔のアル。しかし、いつもと何か違う。
穏やかながらも迫力というか、圧のある顔をしている。
その迫力に圧倒され、エルザは戸惑いながらも返事を返す。
「……わ…かりました」
「うん。じゃあ、おやすみ、エルザ」
にっこり笑ってそう言ったのは、エルザのよく知る優しい顔だった。
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