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#26 魔法薬




「魔道具の故障?」



エルザが店に出ると、年配の男性と男の子が、エルザに説明する。



「じいちゃんが、昨日から耳の聞こえが急に悪くなったって。お医者に診てもらったら、耳は変わりないから、道具の方じゃないかっていうんだ」



店では魔道具の扱いはないが、簡単な仕組みの物ならエルザが診て直すことが出来た。魔道具に明るくない近所の顔馴染みがたまにやって来るのだ。男性は向かいの食料品店の店主で、名前をジョシュといい、一緒に来たのは孫のライトだ。

エルザはジョシュから問題の魔道具を受け取り、異変を探すが、おかしな点は見当たらない。



「故障というより、魔力が足りないのかな?おじさん、魔力の調子は?変わりない?」


「変わらんと思うがな…」



耳が聴こえづらくなっているジョシュに、エルザが大きな声で問い掛ける。

体調の変化で、魔力の量が変わることもある。エルザはそれが原因ではと疑ったが、ジョシュは首を横に振る。

そこにいる全員が、うーんと首を傾げていると、背後から声がした。



「それ、最近出回ってる魔法薬のせいかもよ」



いつの間にか店に出てきたドロシーが、魔道具を見つめていた。ドロシーによると、人や魔道具の魔力を吸いとり、しばらく魔力を使えなくなるという違法な薬が、他国から持ち込まれたのだという。



「まず悪用しかされないだろうからって、取り締まるんだって。カインも調査と事後処理に駆り出されてるの」



本来は、カインと一緒に遊びに来る予定が急遽変更になったのは、その薬が絡んでいたらしい。

それまでエルザの横で話を聞いていたアルが、そういえば、と話し出す。



「俺のところにも通達があったよ。持ち込んだ窃盗団はもう牢の中だけど、こんな市中に出回ってるのか…?ていうか、ドロシーさん詳しいね」


「商会に依頼があって調べたの。国内にも手引きした組織があるんじゃないかって、引き続き調べてるわ。……こんなところにもっていうのは同感ね。カインに知らせなきゃ」



ドロシーは紙に何かを書いて折り畳むと、息をフゥっと吹き掛けた。折り畳まれた手紙は宙に浮き、光の粒になって消えてしまった。



「おじさん、ひとまず今日はそのまま様子を見て欲しい。もし悪い薬が原因なら、2日もあれば元に戻るはずなんだ。不便かもしれないけど…」


「それじゃあ、これは?2、3日くらいなら大丈夫じゃないかな」



アルが、ジョシュに今後について説明するのを聞いていたエルザが、健康のお守りをジョシュに手渡す。



「今よりは聴こえやすくなると思う。ちょっと割り増しで魔力入れといたから」


「おお、ありがとう!さっきより聞こえるよ。お代はいくらだい?」


「いらないよ……と思ったけど、紅茶の茶葉でもらおうかな?」


「……わかったよ。いつものと、滅多に入らない高級茶葉で支払おう!助かった、ありがとうよ」



人懐こい笑顔で取引に応じるエルザを見ながら、アルは魔法薬の事を考える。

窃盗団が薬を使用したのは、銀行や美術館など施設のセキュリティを打ち消すためだったと聞いている。

施設が集中する中央から少し外れたこの辺りに、なぜ薬があるのだ?偶然か?


難しい顔のアルを、ライトがポカンとして見上げている。

アルはそれに気づいて、にっこりと笑みを浮かべた。



「何か気になる?もう心配はいらないよ」


「にいちゃん、エルザねえちゃんと付き合ってんのか?」


「つっ……」



子供の無垢な瞳で残酷な質問を受け、ダメージを受ける。

隣で聞いていたドロシーが、そんなアルを擁護する…ように口を開いた。



「違うのライト。彼はね、ただの お と も だ ち なのよ」


「なんだ、そっか。いつも一緒にいるから、俺てっきり…」



ニコニコと納得の表情を浮かべるライトを横目に、涙目のアルはドロシーにジトジトと抗議の目線を送る。

ドロシーは涼やかにそれをかわし、アルとすれ違いざま、ニヤリと呟いた。



「『今はまだ』でしょ?頑張ってよ?」






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