#21 ハグ、とは(1)
「…俺のことも頼りにして?」
アルの切なげな言葉に、エルザの胸の奥が何かにギュっと握られる。
「…どうしました?」
「…わかんない…どうしちゃったんだろうね俺」
照れ隠しのように笑い、手を自分の頬に当ておどけているが、どこか物憂げな様子が見える。
アルの言葉をそのまま受け取れば、プロである自分をもっと頼って欲しいのだろう。騎士という仕事柄、人を守る事に特別な思いがあるのだろうか。
この間のことも、『力不足だった』とか、気に病んでしまっているのかもしれない。
そんなことないのに。とても頼りにしているのに。
あの時、アルの姿を見てどれだけホッとしたか。
掴まれた力強い手は暖かくて、それがとても嬉しかった。
エルザはアルの顔を覗き込んで、優しく諭す。
「アルさんはこうして毎日来てくれて、心強いなって思ってます。しっかりと頼りにしてます」
「うん…」
「心配かけてごめんなさい。あの日も来てくれて本当に嬉しかった。ありがとう」
少し気恥ずかしそうに、改めてお礼の言葉を口にした。
アルは一瞬目を瞬かせると、エルザの両手を取り、包み込む。
「エルザ」
「はい」
「ハグしてもいい?」
「………へ」
ハグとは。
相手を抱きしめたり、抱きしめられたりする、あの、すごく、きゅっと、ぎゅっと密着する感じのやつ。ええと、特別な仲良しのアレ。
言葉の意味を思い浮かべてみても、非常に残念な語彙しか出てこない。エルザは混乱している。
突然どうしたというのだろう。
アルは少しだけ顔を赤らめているものの、表情は真剣そのもので、まっすぐにエルザを見つめている。
―――ハグって??抱きしめたいってどういうこと??
エルザの脳内が混乱の極みに達する頃、落ち着け!と警鐘が鳴り響く。
―――ハグって、家族とか、友達でも、するわよね。
無事で良かった、みたいなそういう意味合いの、アルにとってはよくやることなのかもしれない。
自分ばかりが変な方向に考え過ぎてしまったようで、それが意識過剰に思えてとても恥ずかしい。
「……ど、どうぞ…」
そういうことならと、両腕を拡げて受け入れの体勢を取る。やっぱり照れ臭くて、頬が赤くなる。
その様子を見て、アルは静かに距離を縮めた。
おそるおそるエルザの背に手を回し、自分の方へ引き寄せる。
肩口に顔を寄せると、柔らかな髪が顔に触れてくすぐったい。
香水とは全く違う、野花や草のいい香りがして、ざわざわした気持ちを優しく宥めてくれるようだ。
アルの腕の中で、エルザは感情をぐるんぐるんと揺さぶられていた。
友達のハグだろうが何だろうが、抱き合うのだから思い切り体が密着するのは知っている。しかしこれほど、包まれるようなものとは思っていなかった。
細身だと思っていた体は、しっかり鍛えられて引き締まっているせいだった。触れている胸板や腕は力強く、逞しいのに、とても優しく囲われている。
あと、石鹸の香りなのか、爽やかないい匂いがする。
諸々折り合いをつけたアルへの気持ちがひょっこり出そうになり、とにかく感情を悟られないよう、無になり平静を装う。
エルザの心中は嵐のように、荒れに荒れていた。
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