#13 騎士と同僚
「そういえば、この辺だよね。『魔女の相談室』」
「調べたのか!?」
ロイはキョロキョロと辺りを見回して目当ての店を探している。
おそらく、わかっていてこちらの道に誘導したのだろう。
油断した、とアルは眉を寄せる。
俺の癒しの空間に、一番入れたくない男なのに…、と渋い顔をするアルに、ロイが気遣わしげな芝居がかった声をだす。
「あぁ、いいんだいいんだ、俺ひとりで行くから。お前がいないときにゆっくりとね」
ニヤニヤと冗談めかして話しているが、これは本気で行くときの顔だとアルは知っている。
このにやけた男をエルザの視界にいれることになるとは……
アルは自分の気の緩みをおおいに後悔していた。
◇
エルザはひとり、カウンターでぼんやりと考え込んでいた。頭にあるのは、先日のアルとの一件だ。
彼の記憶はなかったが、エルザはしっかりと、まるまる、はっきりくっきり覚えている。
熱のある視線、背中に感じた彼の温もり、そしてあの、とろけそうな笑顔―――
「んん゛っ」
うめき声と共に、エルザは赤くなった顔を両手で覆う。
思い出す度に胸がキュッと絞められて苦しくなる。顔がいい男は心臓に悪いとは本当のことらしい。
「お酒を飲ませちゃいけなかったんだわ。そう、酔っていたから。アルさんに他意はないんだもの」
あの恥ずかしいやり取りも、あどけない寝顔も、酔っていたから、という結論に至るのも何度目だろう。
あの日の事を思い出しては、思考がループしてしまう。頭から離れないのだ。
ひとまず仕事しよ、と切り替えたところへ、ドアベルが鳴った。
「いらっしゃ……アルさん?」
「エルザ、突然ごめんね」
そこにはいつものラフな服と違う、かっちりした騎士服に身を包んだアルと、もう一人、同じ服の男性が立っていた。
同僚だろうか?と考えていると、アルが申し訳なさそうな顔をする。
何かあったんですか?と聞こうとしたエルザの前に、一緒にいた男性が進み出た。
「こんにちは、かわいい魔女さん。俺はアルの同僚のロイと言います」
ロイと名乗った男性は、アルより何歳か歳上に見える。女性の扱いに手慣れているといった感じで、紳士的に、にこやかに挨拶をした。
アルほどの威力はないが、彼も相当な良い顔をしている。
エルザをとらえた琥珀の眼は美しく、好奇心に満ちていた。
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