#12 隠し事
仕事の休憩中、ロイとアルは街中にいた。
『泥棒!』と言う声と、男がバッグを抱えて逃げている現場に出くわした。
アルはとっさに足をかけ、転ばせた男の腕を捻りあげ、道に組み伏して確保。ここまではよかった。
その後、自分の下にしている男の背に膝をのせ、ぐっを体重をのせ始めた。
男もはじめのうちは暴れていたが、無表情で周りの制止も聞かず、ただただ拘束の力を強め続けるアルに恐怖し、失神。
アルが絞め技に移ろうとしたところをロイが止めた、と言うわけである。
「アル、なんか……体調悪い?」
「いや別に。むしろ好調だけど」
「こないだからポヤ~っとしてるって言うか…いつもと違うんだけど…」
「そう?」
そう言われてみると、顔が熱くなったり、ぼーっとすることが増えたかもしれない。病気なんだろうか?
そんなことをアルが考えていると、バッグの持ち主らしき女性が近づいてきた。
「あの、取り戻していただいてありがとうございました…」
上質な生地のワンピース、艶のある髪、滑らかな所作。
貴族の子女と思われる美しい女性は華麗に一礼した。
ロイはアルを庇うようにスッと前に出て、ニッコリと微笑んだ。
「いえ、お役にたてて光栄です。美しい方。」
「まぁ」
扇で顔を隠しながら、上品に笑うご令嬢は、ふともう一人―――アルの顔をみて、一瞬、獲物を見つけたかのように眼をギラリと光らせる。
目の前のロイをかわして、スルリとアルへと近づいた。
「大切にしていたものなので助かりました。そうだわ、お礼。お礼をしなくては!お名前をうかがってもよろしくて?」
「礼などいりません…これが仕事ですから。お気持ちだけ頂きます。」
かろうじて笑顔、というくらいの微かな笑みと、事務的な言葉が出てきた。好意でも嫌悪でもない、強いて言えば無の感情、淡々とした応対だ。
しかし、これまでのアルを知るものからすると、考えられないことだった。
あまりに無関心な様子に興を削がれたのか、ご令嬢は再度一礼し、お礼の言葉を残して引き返していった。
ふと見ると、信じられないものを見たように眼を丸くしたロイがこちらをじっと見ている。
「なんだよ?」
「いや」
ロイはここ最近のアルの様子がおかしいと感じていた。仕事中も考え事をしてるのか、なんだかフワフワとしていて、おぼつかない。
何より変化したのが、女性への接し方だった。
これまでは同じ空間にいるだけで不快感をあらわにして、会話するなどもってのほか、といった感じだったのが、先ほどのやり取りのように、自身で対応することができるようになっている。
嬉しい変化だが、あまりに急なことで、何があったか心配なのだ。
本人に聞くと、小さなお守り袋を見せてきた。
魔女の店のものらしいが、そこまで強いものではない。
その店で何かあったのかと聞くと、絶対に何かあった顔で『何も?』としらばっくれる。
俺に隠し事をしようなど1000年早い。
間違いなく、最近嬉しそうに通いつめている魔女の店に理由がある、と睨んでいた。
それが自分の考える理由ならば、これほど面白……、喜ばしいことはない。
ロイは心底楽しそうに口元を緩ませた。
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