幕間
皇王国では、罪を犯すと八咫烏に逮捕され、拘置所に拘束される。その間に裁判が行われ、刑罰が執行される仕組みになっている。
拘置所は各都市に設置され、基本的には八咫烏が駐在する屯所の地下に作られている。宗次郎たちのいる剣爛市では首都に近いこともあって規模が大きく、多くの罪人が収容されていた。よって武装した八咫烏が随時巡回しているのだが━━━
「っ……」
「こら。ちゃんと監視をしないか」
つい最近配属された新人がある独房の前を足早に通り過ぎたため、先輩の八咫烏から叱責が飛ぶ。
「すみません。でも、あそこにいる男、怖いんですよ。なんというか、目がイっちゃってるじゃないですか。差し出された食事にも手を付けないし」
「……なるほどな」
先輩は新人をそれ以上叱ることなく、あきらめと悲しみが入り混じった視線を独房へ向けた。
「栄枯盛衰、ということなのだろうな」
「?」
「そうか。お前はこの町に来て間もなかったな」
「有名人なんですか?」
「この町ではな。さ、巡回は終わりだ。飯でも食いに行こう」
「はい!」
元気よく返事をした新人は先輩の後をついていきつつも、例の独房が気になっていた。
その独房の中には、一人の男が鎖につながれている。
「フゥー、フゥー、フゥー」
年齢は四十前後に見える。息は荒く、体中に汗が浮かんでいる。髪と髭がぼさぼさに伸びきっていて、目は血走り口からはよだれが垂れている。新人八咫烏の言うとおり尋常ではなく、とても有名人には見えない風体をしていた。
太陽の光も月明りも入らない独房の中で、男は過去の栄光に浸る。
より大きく、より強く。己を鍛えた日々。
波動に目覚め、三塔学院に入学して級友と過ごした青春時代。
爆発したかのような大歓声と連呼される自分の名前を聞きながら、目の前の相手と武を競い合う闘いの数々。
そして、勝利の美酒に酔いしれた自分を笑顔で迎えてくれる大切な存在。
「ウ! グゥアワ!」
突如体に激痛が走り、獣のような悲鳴を上げて体をよじらせる。
視界が狭窄する。脈が乱れて思考がまとまらなくなる。
━━━まだ。まだだ。
男は必死に自身の症状を抑えつつ、思考を未来へ向ける。
━━━そうだ。来るべきときが来るまでは耐えるのだ。
自分の都合のよい未来を想像し、男から醜悪な笑みがこぼれた。
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