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全ての決着 その7

読者の皆様、こんばんは。


こちらでも謝罪致します。


実は二日前から二話ずつ投稿しています。後書きなどで告知せず申し訳ありませんでした。

こちらが本日投稿分の二話目になりますので、前の話からお読みください。


もしここまで読んでいて「あれ? 話が飛んだ?」と思った方は、お手数ですが

「全ての決着 その2」から順に読んでいただけると嬉しいです。


大変申し訳ありませんでした。それでは本編をお楽しみください。

 斬りかかるシオンに応戦する宗次郎。


 活強を用いた神速の動きで波動刀がぶつかり合う。


 三合ほど打ち合い、身を捻って宗次郎は距離を取る。


 ━━━風の波動か。


 八咫烏が扱う剣技は波動の属性によって特徴が異なる。 


 風の波動は最速の剣と言われている。性質に合わせて、足運びと遠距離攻撃に特化しているのだ。そよ風のごとき自由な動きで相手を撹乱し、鎌鼬のように鋭い斬撃を飛ばす。


 シオンはアクロバティックに動きまわり、宗次郎の背後を取る。


「はぁっ!」


 しなやかな足運びとともに繰り出された袈裟斬り、左薙、右斬上の三連撃を交わし、宗次郎は距離を取る。


「!」


 否、三連撃で終わりではなかった。


 シオンは突きを繰り出して刀身に絡みついた風を放出する。


「風刀の壱:疾風刃しっぷうじん!」


 右薙の一閃は空を斬り、まっすぐ宗次郎へと飛ぶ。


 ━━━躱しきれない!


 とっさに判断した宗次郎は自身の体内にある波動で術を組み上げる。


「時刀の壱:時繰ときくり!」


 時の波動を使って体内時間を加速させ、すんでのところで回避する。


 バキバキと鈍い音が後ろからする。宗次郎が躱した風の刃は背後にある大木をなぎ倒したのだ。


 宗次郎は頬についた傷を指で押さえる。


 壱の技はどの属性でも基本の技だ。その完成度でどれだけ波動、剣術を極めているか手に取るようにわかる。


 燈の技には実戦で鍛え上げられた特有の粗さと、習得した型への忠実さがいい塩梅に両立していた。


 ━━━執念、か。


 出血多量で意識を朦朧とさせながらも、宗次郎はシオンと練馬の話を耳にしていた。


 シオンは、徹底的に己を鍛えたのだろう。母の無念を晴らすため、国に復讐するため。血の滲むような努力で波動術を磨き、剣を振ったに違いない。


 その執念の果てに、燈と互角に戦い、力を取り戻したばかりの宗次郎に一撃を加えるほどの力を手に入れたのだ。


「なによ!? 伝説の英雄が逃げてばかり?」


 シオンは怒りに任せて挑発してくる。


 手を抜いたらこちらもタダでは済まないとわかっているが、宗次郎は構えを解いて刀を下ろした。


「なんのつもりよ!?」


 戦闘の意思を無くしたような仕草に燈は困惑し、怒鳴る。


「別に。最後だから、確認をしたいだけだ」


「はあ!?」


「君は、本当にそれでいいのか?」


 以前もぶつけた疑問を、再度投げかける。


「大切な家族を亡くして、復讐したい気持ちはわかるよ」


「ふざけんな! お前なんかに━━━」


「わかるんだよ。それは」


 宗次郎はシオンの言葉を遮った。


「俺だって大切な仲間を失った。妖に家族を殺された奴なんてザラにいたし、そういう奴の復讐を手伝ったりもした」


「なら、あたしを止める権利はないだろ!」


「止めるさ」


 宗次郎は一歩前へと踏み出す。


「君がやろうとしているのは復讐じゃない。わかってるんだろう。君たち家族を貶めた貴族はもう━━━」


「っ、うるせーんだよ!」


 宗次郎の声をかき消し、シオンは泣き叫ぶ。


「貴族なんざどうだっていい! 私たちは大切にしていたもの全てに裏切られた! 国も! 町も! 人も! だから全部つぶすんだ!」


「その果てに何があるんだよ」


「知るか! 目的のためなら死んでもいい!」


「兄貴一人残しても、か?」


 シオンは痛いところを突かれ、くっと歯噛みする。


「練馬さんは君のために全てを捨てたんだぞ」


「それで? あたしも全てを忘れろっていうの?」


「そうじゃない。ただ、今までとは違うやり方を選べるんじゃないか?」


 練馬とシオン。二人の行動原理は同じだ。


 家族に向ける暖かな愛なのだ。


 なのに、この兄妹が生きた道はあまりにも違う。その理由は環境が彼らを受け入れてくれたかどうかだ。


 練馬は事情を知っている貴族、南家に拾われた。彼だって憎しみや辛さを抱えていたはずだ。その過去を捨て、自分に受けた悲劇を繰り返さないため国に忠誠を誓ったのは、きっと周りが彼の感情を受け止めたからだ。


 シオンは天主極楽教に拾われた。テロリストが彼女の感情を受け止めたとは思えない。自分から全てを奪った国への復讐を誓ったのは、きっとその憎しみや辛さを利用されたからだ。


 どこかで何かの事情が違えば、二人の道も違っていたはずだ。


 実際、練馬はシオンと再会して生き方を変えたのだから。


「天主極楽教に入って、何か変わったか? 天修羅を復活させるだなんて言いながら麻薬をばらまいてる連中だぞ。弱者を食い物にする、君たちを苦しめた貴族となんら変わらない。兄貴を巻き込んでまで君がやりたいのは、本当にそんなことか?」


「っ……」


 宗次郎は噛んで含めるよう、ゆっくりと最後の説得を行う。


 シオンは初めて怯んだ。宗次郎を睨もうとするも、目を合わせられずに口を閉ざしている。


 宗次郎の言葉を否定しようとして、できないでいるのだ。怒涛の勢いは影を潜め、動揺していて隙だらけだ。


「━━━よ」


「?」


「なら、どうしたらいいっていうのよ!」


 距離を詰めてシオンが剣を振るう。


「貴族はもういない!? 復讐しても母親は生き返らない!? 喜ばない!? 聞き飽きてんだよ綺麗事は!」


「くっ」

 

 直線的な剣だ。その軌跡には術理はなく、ただ感情が乗っていた。


 怒りや苦しみを全て吐き出すような剣を死に物狂いで回避する。活強によって身体能力が強化されている上、シオンの異常な迫力に気圧される。


「あたしはテロリストだ!  天主極楽教の戦士だ! 今さらあとに引けるもんか!」


 宗次郎はシオンの刀を弾き、再び距離を置く。


 シオンを無力化したいところだが、活路が見いだせない。こうなってしまっては説得はもはや不可能だ。


 練馬も宗次郎と同じように説得をしようとしたはずだ。それでもシオンが考えを曲げないのであれば、


「!」


 剣戟の真っ最中に宗次郎は燈の姿を捉える。


 ━━━ああ、そうだった。


 宗次郎は燈のおかげで決心がついた。


 その様子は参加できないもどかしさはなく、応援しているわけでもない。


 燈は座ったまま、宗次郎とシオンの戦いを見守ってくれていた。


 自分を信じてくれている。目を見るだけで、その信頼ははっきりと伝わったのだ。


「ふっ!」


 宗次郎は最後の手段を思いついた。


 シオンの刀を弾き、さらに後退する。拝殿の脇をすり抜け、階段の手前で立ち止まった。


「ちょこまかと逃げまわらないでよ!」


「いや、もう逃げない」


 崖のように見下ろせる階段を背に、振り向いてシオンと向かい合う。


「確かに俺は間違っていたのかもしれない」


「あ!?」


「戦士である君に、言葉で懐柔しようとしたのは俺の誤りだ」


 宗次郎は頭を下げる。


「藤宮シオン。その強さに敬意を評して、ここで終わりにする」


「ふん! 背水の陣ってわけ?」


「ああ、ここなら誰も巻き込まないで済む」


 燈も練馬も本殿の近くにいる。階段から百メートル以上離れているのだ。


 まして宗次郎の背面には何もない。市の上にある空間が広がっているだけだ。


「舐めた真似してくれるじゃん」


「そうさ。俺は君より強いからな」


 宗次郎は天斬剣を高らかに掲げ、黄金色の波動を天高くまで解き放つ。


「俺は初代国王、皇大地の剣だ。君が憎むこの国の礎を築き、君が恨む貴族を生み出し、君の先祖にこの神社を押し付けたのは、俺だ」


「っ!」


 挑発を合図にシオンは刀を構え、小さな体から噴火のごとき勢いで波動を放出する。


 その量は天斬剣に掛けられた封印の開放時にも匹敵する、まさに膨大なものだった。


 シオンは本気になったのだ。


「ははっ」


 宗次郎は自嘲気味に、小さく笑った。


 何が、環境が受け入れてくれたかどうかの差だ。これが英雄の考え方か。


 違うだろう。


 目の前に困っている女の子がいるんだ。


 その苦しみも、


 その痛みも、


 真正面から受け止めてこその、英雄。


 シオンの刀は波動の属性に合わせて緑色に光り輝き、風に溶け込んでいる。宗次郎の周囲に至るまでの大気を支配していた。


 ━━━この圧力……。


 竜巻を目の前にするようなプレッシャー。波動の量からして、シオンは全力でくる。


 宗次郎も負けじと自身の波動を加速させる。左肩をさらけ出し、鋒を後方にしながら下段の構えを取る。



「風刀・奥義━━━白虎びゃっこ!」



 圧倒的な波動が渦巻く中心に立ち、シオンは必殺の一撃を開示した。


 まさしく風の如き素早さで間合いを詰めるシオン。


 ━━━見切った!


 極限まで高められた集中力がシオンの動きをスローモーションに見せる。さらに属性による特異体質が宗次郎とシオンの距離を正確に伝える。


 シオンの攻撃は回転によって、全体重を加えた左薙ひだりなぎ


「時刀の壱:時操ときくり!」


 完璧なタイミング、完璧な間合いを調整して宗次郎は波動術を発動する。体内時間を活性化させ、加速。活強を用いた肉体強化以上のスピードで、距離を取る。


 シオンの攻撃は大振りだ。外した隙に間合いをつめて━━━


「ぐ!」


 攻撃を繰り出そうとした矢先、宗次郎の体が突風に身動きが取れなくなる。


 風だ。


 シオンの波動が溶け込んだ大気がシオンへと吸い寄せられるように集まっている。


 その勢いはまさしく台風の中心にまきこまれる暴風のそれだった。宗次郎は足を取られてバランスを失う。


「うお、あ」


 ━━━引き寄せられている……!


 隙を生じさせぬ二段構えの攻撃が風の波動が誇る最終奥義の真骨頂。一撃目で発生させた凄まじい風に引き寄せられたところに、カウンターとなる二撃目を加える。


「あたしの勝ちだ!」


 シオンは頭上に集めた風は圧縮されている。まさに爆弾だ。まともにぶつかれば、全てを斬り裂く風で宗次郎の体はバラバラになる。


「それは……どうかな!」


 体勢を立て直す余裕はない。宗次郎はあえて地面を蹴って回転する。


 狙うはシオンではなく、シオンの頭上に集められた風だ!


「空刀のさん━━━空斬からぎり!」


 天斬剣に纏っていた黄金の波動が走り抜ける。


 バランスを失いながらも、宗次郎はシオンが集めた風を逆袈裟に斬ったのだ。


 『王国記』において語られる伝承に曰く。初代国王の剣の強さは、その神速の動きは何者も捉えることはできず、その強力な斬撃はあらゆる敵を両断したとされる。


 神速の動きは、活強による身体能力の強化、体内時間の活性による高速移動、空間転移による瞬間移動を使い分けて実現した。


 では、あらゆる敵を両断した斬撃とは何か。


 その正体こそ空間を分かつ一撃。予め設定した範囲を刃の軌道に沿って空間ごと斬り裂く、防御不可の攻撃だった。


「きゃあ!」


 集められ、圧縮された空気が黄金の輝きに引き裂かれ、破裂する。大技を放つ直前に背後で爆発を食らった形になるシオンは風の向くまま吹っ飛ばされる。


「く━━━」


 運良く目の前に来たシオンをキャッチし、脇に抱える。


 引き寄せられた一撃目とは比べ物にならない、猛烈な風だ。


 立っていられなくなった宗次郎は地面に天斬剣を突き刺す。


「うおおおおおおおおおお!」


 飛んでくる嵐は小石を宗次郎たちに容赦なくぶつける。目を開けることすらできない。


 ━━━やばい。


 空斬りの全力の波動を使ってしまい、活強による肉体活性が維持できない。


 天斬剣を握る右手を離せば、宗次郎たちは文字通り宙を舞うことになる。そうなったら麓まで真っ逆さまに落ちる。


 このままでは、と思案する宗次郎に天から女神の声がする。


「氷刀の銀盤柱ぎんばんばしら!」


 活強により跳躍した燈が氷の塊と共に降ってきて、吹きすさぶ風を遮った。


「燈!?」


「宗次郎!」


 燈は宗次郎たちにぶつかるように氷塊から飛び降り、宗次郎の腕を掴んで空に背中を向けるようしゃがみこんだ。


「お、おい」


「大丈夫!」


 割れていく氷塊を補修しながら、燈は宗次郎を抱きしめた。


 耳に風の唸り声と木々のへし折れる音が聞こえる。


 無限に感じられる一瞬を、二人は互いの存在にしがみつきながら耐えた。

明日も二話投稿です。第一部完結です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最終回まで後少し…!!
[良い点] 第一章完結まで読みました。 煌大地彼こそが宗次郎本人。 悠久の時を越え、約束を果たすため、天斬剣と共にシオンたちと戦う。いやはや、熱血な展開。数々の散りばめられた伏線。この瞬間、この戦闘の…
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