真実と真意と その3
次の日。
日が昇ると同時に宗次郎は目を覚ました。檻の中で寝たせいで体の節々が痛い。なのにろくに伸ばす事もままならず、宗次郎は苦い顔をする。
「起きたか」
やる事もないので座禅を組んでいると、剣城がやってきた。昨夜と違い仏頂面で、何を考えているのかまるで読めない。
「ついて来い」
牢屋の鍵を外され、宗次郎は外へ出る。
「ん〜〜〜」
まずは伸びをして身体をほぐす。バキバキと関節が鳴る音が響いた。
「早くせんか」
剣城に急かされ、宗次郎はテントの裏口から中に入った。
中は薄暗く、また人気もない。昨日ここで喧嘩をしたのが嘘のように静寂だった。
「ここだ。ここにいろ」
廊下を進んでしばらく、剣城が指示したのは隙間の様な空間だった。
首を突っ込んでみると中は薄暗い。一か所だけ明かりが差し込んでいた。そのまま全身を入れると、窮屈さで文字通り身が縮んだ。
「お前に二つ命じる。私が指示を出すまでここを出るな。そして、物音を立てるな。わかったな?」
まるで戦闘中の気迫だ。剣城の発言に宗次郎は無言で頷いた。
すぐに剣城は布で宗次郎を覆い隠した。冬の気配が忍び寄る秋とはいえ、ほぼ密閉空間にいる。宗次郎の額にはすぐに汗が浮かんだ。
━━━一体なんだってんだ?
昨夜に大地のことをもっと知ってもらうと言っていた。それが、この密閉空間にいる理由なのだろうか。
手持ち無沙汰な宗次郎は明かりが差し込む隙間を覗き込む。
━━━?
広い空間だった。おそらく大地の玉座が置かれていた部屋だろう。が、今は粗末な椅子が六つ、向かい合う様に並んでいるだけだった。
宗次郎が疑問に思っていると、シャッと布が開く音がして三人分の足音がする。
「殿下。お気をつけを」
「わかっている」
相変わらず不機嫌そうな大地、いつもよりしっかりした格好の爺、仏頂面の剣城が入ってきてきた。
「?」
━━━やべ!
大地と目が合いそうになり、宗次郎は慌てて頭を下げる。
やがてギシ、と椅子に腰掛ける音が聞こえた。宗次郎はゆっくり視線を戻す。
大地と剣城は背中を向けて座っている。宗次郎はほっと一息ついて、気配を消す努力を務めた。
「はぁ」
「陛下」
「うるさい。わかっている」
大地がため息をつくと、爺がすかさず声をかける。どことなく雰囲気が重い。嫌な緊張感が漂っていた。
「では、迎えて参ります」
少しして、立っていた爺が再び幕の向こうへと姿を消した。歩きながら、宗次郎に視線を向けている。
見ていろ、と言われた気がして宗次郎も頷いた。
椅子が六つあり、爺が迎えにいくと行ったところから、誰か客が来ているのだろう。
問題は、それが誰かということだ。
天幕の向こうに人影が四つ見える。
いよいよだ、と宗次郎が身構えると、
「こちらへ」
爺に案内されて三人の男が入ってきた。
「大地陛下、お目に描かれて光栄です」
「内田どの、遠路はるばるよくお越しくださった」
最初に頭を下げたのは恰幅の良い男だった。白髪が混じった頭髪に蓄えられた髭、格好から見てもそれなりの地位にいるのだろう。
そんな男性が大地のような少年に頭を下げている。なんとも奇妙な光景だった。
「大地陛下、お久しぶりでございます」
「大賀どのも。壮健で何より」
次に頭を下げたのは細身の男だった。どこかや連れていて覇気がない。目の下にも隈がある。
もう一人は唯一帯刀しており、大地に対して軽く頭を下げただけ。大地も特に何も言わない。服装は一番地味だが、戦士としての実力は三人の中で最も高い。
━━━頭とその副官、そして護衛役ってところかな。
そう見切りをつけたところで、宗次郎はあることに気づく。
三人の胸に、玄武の刺繍がある。
━━━この人たちは、信斐の人間か。
角根砦に掲げられていた旗と全く同じ。大地たち尾州の同盟国の人たちだった。




