戦いが終わって その4
「それは俺の仕事ではない」
吐き捨てた大地はくるりと背を向けた。
「陛下」
「うるさい。それほど必要だというのなら。剣城、お前が行け」
「陛下!」
駄々をこねる大地に対して爺が声を張り上げる。
大地はピタリと立ち止まった。
「わがままを言うのはおやめください。陛下は尾州を統べる王なのです。国を守り、民を守る義務があります。どうか考え直していただきたい」
「……何度も言わせるな。必要ない」
大地は大きなため息をついた。
「父君はそのようなことはおっしゃいませんでしたぞ」
爺の発言に再びテント内の空気が凍る。
うつむいている慶次と三木谷が無言で慌てふためいているのが宗次郎にも分かった。
━━━はぁ。
宗次郎は身体に疲労感があふれてきた。
三木谷と親しい女性に体力を回復してもらったのに、精神的に参るような出来事ばかり。
そのすべての元凶があこがれていた初代国王、皇大地本人であるというのだから質が悪い。
大地が疲れているといったのはうそではないだろう。いつもの通りイライラしているのに、今日はそれが表へと出てきていない。出す気力もないのだろう。
爺のいうこともわかるが、疲れ切ってイライラした大地が人前に立ったところで国民が安心するかと言われれば首を傾げてしまう。
━━━なんでもいいからとっとと終わってくんないかな。
宗次郎が投げやりになってくると、大地が口を開いた。
「俺は……」
ぽつり、とつぶやく大地の声が震えていた。
「俺は父上でとは違う!」
ドカーン、という爆発音が聞こえてきそうな勢いで、大地の怒りがさく裂した。
「今の王は俺だ! 父上ではない! まして父上は俺に、王とは人の上に立つ存在だと言ったのだぞ! 労うなどするはずがないだろう! まして、死んで帰ってくるような波動師にな!」
大地が吐き捨てると、再び沈黙が訪れる。
困惑していた慶次と三木谷、爺や剣城も皆同じ表情をしているとわかった。
宗次郎も含め、大地の言っている意味は理解できるが、その意図はまるで理解できなかった。
「どういう、意味ですか」
爺の声が怒りに震えているのがわかった。
「当然だろう!わが尾州軍は最強だなどと言っておきながら、たかが砦の防衛で半数以上が死にやがって! あんな━━━」
大地は怒りに任せて、すべてをぶちまけた。
「死ぬような弱い波動師なぞ、我が国の恥だ!」
大地の一言を聞いた瞬間、宗次郎は頭の中でブツンという、何かが切れる音が聞こえた。
恥。
恥と言った。
命を懸けて戦った戦士を、恥だと。
「陛下……」
はぁはぁと息を荒げる大地に爺は言葉を発するが、なんと声をかけていいのかわかっていない様子だ。
「おい」
その様子を視界にとらえていた宗次郎は、大地と目が合った。
「なぜ立ち上がっている! 控えろ!」
大地と目が合い、罵声を浴びせられるが、そんなことは宗次郎にはどうでもよかった。
「おい、しょうね━━━」
爺が言葉をかけるより早く、宗次郎は動いた。
腹にたまったマグマのような、どうしようもない怒りを右腕に込めて。
宗次郎は大地を殴りつけていた。




