憧れと現実 その7
「ふぅ」
はっきりとついたため息が聞こえてきた。その主は、大地のそばに控えていた爺だった。
「なんとかなりましたな。感謝します、剣城殿。緒方殿」
「……おい。お前は下がれ」
剣城は爺の言葉を無視し、宗次郎に出て行くように言う。
「わかりました」
躊躇も、疑問も抱く様子はなく、宗次郎はすごすごとテントから出ていく。
「何も言わずに出ていく、か」
てっきり何か聞くものと思っていた、というニュアンスを匂わせた剣城に爺と緒方は実はギョッとしていた。
剣城は滅多に喋らない。自身を一本の刀とみなし、そう在る。ただ自らの主、王の敵を斬るのみに特化した人間。
そんな剣城が、元奴隷の剣士である子供を気にかけた。その事実が俄には信じられなかった。
「いや、そんなことよりもだ。剣城殿」
「何か、天斗殿」
天斗━━━宗次郎に爺と呼ばれていた男は剣城に詰め寄った。
「なぜ我が王にあのような助言をしたのだ。あの少年を戦いに出すなど……」
「ああでもしなければ、我が王は納得しなかったでしょう」
「しかしだな! あんな年端も行かぬ少年を戦いに出すなど!」
天斗の指摘は真っ当だ。
宗次郎は十三歳。この時代であれ、戦いに出るには少し早いくらいだ。まして初陣である。
初陣は通常、勝てる戦いに参加させる。当然だ。わざわざ負けるような戦いに初陣の戦士を送るなど愚の骨頂だろう。
だが、宗次郎が参加する戦いは妖との戦いだ。
「しかも妖を二十体も倒せなど、無茶にも程がある!」
「……どうなんだ?」
剣城は未だ平伏している緒方に問いかける。
緒方が宗次郎に毎日稽古をつけ散ることを鶴城は知っていた。
「小型の妖であればいけるかと。ただ、戦況によっては━━━」
「……」
緒方は言葉につまり、鶴城はうめく。
そして、天斗は
「また子供を戦いに巻き込むなど……」
一人、言葉をこぼすのだった。




