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憧れと現実 その3

 奴隷の少女を助けるという宗次郎の選択は、結果として功を奏した。 


 赤羽織は自分の発言を守った。翌日の朝には部下と思しき波動師がテントを訪れ、


「君が二五七号だな」


 そう質問してきたので、宗次郎は黙ってうなずいた。


 それから奴隷を監督している二軒屋と話をして、正式に宗次郎は奴隷の身分から解放された。

 二軒屋の下卑た笑みを見なくて済むし、奴隷の仕事に従事する必要もない。


 加えて奴隷の着ていた服からも解放され、なんと没収された宗次郎の波動刀まで帰ってきたのだ。


 返してもらえるとは思っていなかっただけに、宗次郎はとても喜んだ。自身の分身ともいえる波動刀がようやく戻ってきたのだから。


 が、そんないいことばかりではもちろんなかった。


 波動が使えるとわかったため、宗次郎は奴隷から波動師へと昇格した。合わせて波動師が行う戦闘訓練に強制参加となるわけだが、


「オラァ!」


「ぐはっ!」


 みぞおちにけりが入り、宗次郎は悶絶する。


 一対一での戦闘訓練。それも木刀ではなく真剣での訓練で、宗次郎の相手は、なんとあの赤羽織の波動師。


 ━━━痛ぇ……。


 吹き飛ばされた宗次郎はその場で腹を抱えてうずくまる。


 五〇センチ近い体格差は如何ともし難く、波動刀で斬りつけても簡単に受け止められ、やり返される。こうして打撃を喰らうのはいつものことだ。今日だけでもすでに四回、肩やら脚をしこたま殴られていた。


 ━━━バカ、気を抜くな! 集中しろ!


 だが何よりきついのは、これで終わりでは無いと言うこと。


 宗次郎は活強で全身を強化し、さらに霞む視界で赤羽織を捉える。


 走って近づいてくる赤羽織との距離と到達時間を波動の加護が伝える。


 ━━━今!


 ギリギリまで体を休ませつつ、ここぞというタイミングで宗次郎は活強で全身を強化。両手と両足で思い切り地面を蹴り、距離を取る。


 耳に残るのは衝撃音。地面を踏み抜かんばかりに振り下ろされた足音だ。


「逃げるな! 戦え! 殺す気でこい!」


「っはぁっ!」


 息を吐き、立ち上がって波動刀を構える。


 ━━━言われなくても!


 赤羽織が踏み抜いた場所は、さっきまで宗次郎の頭があったところだ。


 情け容赦は一切なし。目の前にいる相手は宗次郎を殺す気だ。


「ウラァ!」


 波動刀を構えてにじり寄ってくる赤羽織。その威圧感、吠え声に普通の波動師ならすくみ上がってしまうだろう。


「ふーっ」


 正直に言うと目を逸らしたいほど怖いが、そうはいかない。宗次郎も鋒を赤羽織に向ける。


 押し潰されそうな睨み合い。息が詰まる中で宗次郎は呼吸を整え、波動を活性化させる。


「シッ!」


 活強で脚力を強化し、赤羽織との距離をつめる。


 だがただ斬りかかるだけではダメだ。宗次郎の斬撃は簡単に受け止められてしまう。


 だからこそ、


「っ!」


「何!」


 赤羽織が迎撃の態勢をとろうとした瞬間に、時間の波動を使ってさらに加速。


 波動刀を構える赤羽織の腕に宗次郎の波動刀が当たった。


 だが、


 ━━━マジかよ!?


 波動刀が当たりはしたものの、かすり傷しか負っていない。籠手をつけていない生身であるのに、だ。


 ━━━空間の波動を使うべきだったか!?


 後悔先に立たず。


 それだけ赤羽織の活強が優れているのか、それとも宗次郎の波動量が足りなかったか。


 いずれにせよ、宗次郎は最大のチャンスを逸してしまった。


「殺す気で来いと言っただろうが!!」


「そこまで!」


 赤羽織の怒号に合わせるように、黄色羽織が声を上げた。


「時間経過。訓練終了ですよ、お二方」


「チッ!」


「緒方さん、ちょっと気合い入れすぎじゃ無いですか? 相手はまだ子供ですよ」


「何言ってやがる。敵を倒せない剣士なんざ役立たずだろうが」


「……ま、それはそうっすけど」


 緒方━━━本名は緒方才蔵というらしい━━━と呼ばれた赤羽織はさっさと訓練場を後にした。


「はぁっ」 


 宗次郎は力無くその場に崩れ落ちる。実戦形式の戦闘訓練。訓練場の端には宗次郎よりも前に緒方にしごいてもらった兵士たちが同じようにぐったりしていた。


「ほい、お疲れちゃん。しばらく休憩だから、ゆっくり休みなよ」


「あ、ありがとうございます。お疲れ様でした」


 宗次郎は息も絶え絶えになりながら、最低限の挨拶をした。




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