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運命の出会い その7

 皇大地。


 宇宙より飛来した魔神、天修羅を初代王の剣と共に撃退し。


 大陸に跋扈した妖を殲滅し。

 史上初めて大陸全土を統一した皇王国の建国者。


 その名を知らぬものなど皇王国にはいないだろう。何せ建国者である。名君として、また神にも等しい存在として語り継がれている。


 が、ここで重大な問題が一つ。


 皇大地は宗次郎のいる時代から千年も前に存在した人物であるということだ。


 ━━━どういう、ことなんだ。


 訳がわからず宗次郎は口をぽかんと開いて、


「ほん、本当に、皇大地……?」


 理解が追いつかないせいか、そのままおうむ返しに聞いてしまった。


「あ、ああ! その通りだ!」


 宗次郎の驚きぶりは、怒髪天を突く勢いだった皇大地が若干の戸惑いを見せるほどだった。


「わかったら平伏しないか!」


 流れ始めた微妙な空気を一刀両断するように大地は声を荒げ、宗次郎は思わず平伏する。


 今まで目の前にいたのはただの態度がでかい無駄に生意気な少年だったが、今はもう違う。


 自分の人生の原点とも言える『王国記』にもその名前が登場するのだから。


 何より、宗次郎が憧れている英雄、初代王の剣の主である。尊敬している人物だ。思わず平伏してしまう。


「改めて問う。貴様はどこから来た。なぜあの森をうろついていた。答えろ!」


 とりあえず無礼な対応により殺されることはなさそうだが、またしても新たな問題が発生してしまった。


 ━━━どうやって答えようか……。


 実験中に波動が暴走し、時空の渦に巻き込まれた。結果この森に迷い込んだ。


 しかも皇大地がいるということは、宗次郎は千年もの時間を飛び越えたことになる。


 ━━━荒唐無稽すぎんだろ。


 説明するには宗次郎の属性から説明する必要があるし、したとしてもあまりにぶっ飛んだ話なので信じてもらえそうにない。


 さりとて、嘘をつこうにもどうやってついたらいいのか。


「ふん、言えぬか」


 少年、皇大地の顔が歪む。笑っているようにも見えるし、苦しんでいるようにも見えた。


「やましい所があると見える。川に沈めて……」


「お待ちを、陛下」


 ここにきて、今まで黙っていた初老の男性が口を挟んだ。


「なんだ?」


「この少年、本当に奴隷でしょうか。爺にはそうは思えませぬゆえ、口を挟ませていただきました」


「……」


 大地は何か言いたげに振り向いたが、頭を下げて恭しくする様子にケチはつけられないらしい。


「その根拠はなんだ」


「奴隷にしては身綺麗な格好をしています。また、剣城の話では身のこなしは戦士のそれだったと」


「本当か?」


「はい。妖の一撃を防いだその体捌きは間違いなく」


 宗次郎を気絶させた大男が大地に一礼する。


 二人の意見に渋々耳を傾けていた大地。これはなんとかなるのでは、と宗次郎が一縷の希望を抱くと、大地は何かに気づいたようにハッとした。


「では敵国のスパイである可能性も捨てきれないな」


 なおも疑いの目を向けられた宗次郎は若干の冷や汗をかく。


「いえ、それもないかと」


 走った緊張感を粉々にする冷静な発言に、宗次郎は吹き出しそうになる。


「爺」


「もし敵国のスパイであるならば、妖との戦線と隣接するあの森からは来ますまい。地理的にはむしろ我が国の民である可能性が━━━」


「それは絶対にない!」


 大地が大声で否定した。


「俺の国の民が! こんな涼しい顔をしているはずがないだろう! まして我が国の領土から来たのなら尚更だ!!」


 ふーっ、ふーっと息を荒げ、やり場のない怒りをあらんかぎりぶちまける大地。


 ━━━こいつ、本当にあの皇大地なのか……?


 皇大地といえば、のちに最高の名君として名を残す初代国王。偉大な国王のはずだ。


 が、目の前にいる少年は名君どころか、ただの癇癪持ちの子供にしか見えなかった。


 ━━━なんだかなぁ。


 相変わらずピンチであることに変わりはないが、それよりも憧れの人物がこんな人間だったのかというがっかり感が宗次郎を包んだ。


「陛下。どうか落ち着いて」


 息を荒げる大地に老人はゆっくり語りかける。肩に置いた手は大地には払い除けられてしまうが、それでもなおめげずに続ける。


「ここは一旦、時間を置きましょう。判断を下すのは野営地に戻ってからでも遅くないかと」


「……我が領地に招き入れろと? なぜあの森にいたのか答えられないような男をか?」


「この牢の中に入れておけばひとまずは安全でしょう。それに答えられないのは記憶喪失である可能性もありましょう」


「……いいだろう」


 全く納得してはいない様子で大地はこちらを向いた。


「ありがたく思え! 特別に、本当に特別に温情を与えてやる!」


 どこかだよ、と思ったがあえて口には出さず、黙って下を向いた。


 これが、宗次郎と皇大地との初めての出会い。


 麦川の上にかかった橋の上で、王と奴隷という身分で、敵のスパイと疑われる最悪の出会いだった。



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