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 ━━━ば、かな!


 理解の及ばない事態に正武家の頭が混乱を極める。


 体が動かせない状態なのはわかる。問題なのはその手段だ。


「ふぅ、やっと発動した」


 驚きの表情を残しつつ、宗次郎はほっとしたように息を吐いている。


「な、何を……した」


「体育祭の時のお返しですよ。先生が俺にしたことを、そっくりそのままね」


「!?」


 ━━━精神感応か!? 


 相手の動きを制限する波動術として真っ先に思い浮かぶのは、正武家が宗次郎にかけようとした精神感応だ。


 だがあり得ない。この三ヶ月で宗次郎に精神感応の才能がないことは確認済み。仮にあったとしても、正武家に気づかれないように精神感応をかけるなど不可能だ。


 確かに天主極楽教と内通している事実を指摘され、動揺はした。しかしその隙に精神感応にかけられたとしても正武家は気づく。


 ましてこの感覚はどこかおかしい。精神感応で動きを封じられていると言うより。


 動きが、遅くなっている?


 ━━━こ、れは……なんだ?


 わからない。自分が何をされたのか全く理解できない。


 恐怖。


 真っ黒な深淵を覗き込んだような、名状し難い震えが走った。


「俺は先生に自身の波動を流し込んでいたんですよ。気がつきませんでしたか?」


「っ!」


 息を呑む正武家。


 いつから、という疑問が湧いてすぐに氷解する。


「あの、波動を爆発させたとき、か?」


「ご名答」


 正武家は正体を知られた直後、水の波動で不意打ちを仕掛け、体勢を崩した宗次郎に斬りかかった。


 宗次郎は天斬剣で防がず、自身の波動を活性化させ爆発させることで正武家を吹き飛ばした。


 波動の活性化は精神感応をかけられた際の対処法だ。体育祭での反省から咄嗟にやったものと思っていたが、まさか━━━


「わ、ざと」


「そう。あなたに俺の波動を流し込むための布石ですよとはいえ、とはいえ、俺は先生ほど波動のコントロールが上手くない。追いかけながら少量の波動を流し込むなんて芸当はできない。けど、剣戟の際なら話は別です。刀の動きに意識が向いているから、多めの波動を流し込める」


 正武家は舌を巻く。


 やられた悔しさはあるが、それ以上に驚嘆していた。


「あの、剣戟も、わざと……」


「はい」


 宗次郎と正武家が一対一で剣術勝負をすれば、正武家の勝ち目はない。ここまで宗次郎から逃げられてきたのは、試験による疲労のおかげだと思っていた。


 しかしそうではなかった。宗次郎はあえて刀の打ち合いを長引かせていたのだ。自身の波動を正武家へと流し込むために。それも、正武家がギリギリで対応できるよう絶妙に手加減をして。


「捕獲のコツは、自身の強みを活かし、かつ相手に悟られぬよう立ち回ること。先生の教えた通りでしたね」


「うぐっ」


 近づいてきた宗次郎に腹部を強打される。


 ━━━こ、の、生意気な……。


 倒れ込みながら、正武家は自身の口角が上がっていると自覚した。


 自分の発言をそのまま返された怒りよりも、なぜか喜びが優っていたらしい。


 その理由がわからないまま、正武家の意識は闇に落ちた。




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