真犯人
夏休みも間近な今、生徒会の仕事は全くと言っていいほどない。
しいて言えば、夏休み明けに卒業するであろう生徒会長たちの送別会の準備くらいだ。
期末試験も終わり、生徒の多くは帰省の準備か夏休みの計画の立案に時間を割いている。学舎内にいる生徒はごく少数の物好きだ。
今の舞友のように。
カツカツと靴音を響かせ、舞友は人気のない廊下を歩いていた。
━━━誰もいなくてむしろよかったわね。
今の自分の表情は想像がついている。凍えるような緊張が全身からにじみ出ているはずだ。
呼び出されたのだ。
学院を騒がせている生徒昏倒事件の容疑者から。
舞友は今回の事件の犯人に心当たりがあった。だが確証とまではいかず、物的証拠もない。そこで燈と舞友は二人のみで独自に捜査を進めた。
燈のほうで被害者と容疑者の接点を洗い出し、舞友は容疑者を積極的に監視した。
結果、全被害者に容疑者との接点を確認し、容疑者はこの一ヶ月犯行を重ねなかった。
状況証拠としては十分。あとは具体的な手段と動機、というところで容疑者から呼び出しされたのだ。
八月三日。一人で第四図書室に来るように。
舞友だけを呼び出したところを見るに、おそらく容疑者は舞友に感づかれたと察したのだろう。
明らかに罠。
だが無視はできない。決定的な証拠を握るチャンスでもある。
行くか行かないかは迷わなかったが、燈に相談するかどうかで悩んだ。
その結果、舞友は燈に相談せずに一人できた。
悪手であるとは自分でもわかっている。
相談すれば、一人で来させようとはしないだろう。八咫烏を動員してくれる可能性もあった。
だが。
もしかしたら、自分の勘違いかもしれない。
その思いがまだ舞友の中にあったのだ。
「ふぅ」
呼び出し場所である図書室の扉の前で、自然とため息が漏れる。
何気なく開け閉めしている扉が分厚く硬い鉄壁になったように錯覚した。
腰に下げている波動杖も、今日に限って重く感じる。いつもなら羽のように扱えるのに。
「よし」
扉を開けて中に入る。
背丈の倍はある本棚の森をぬけ、読書スペースが見えてくる。
いた。
背中まで伸びた黒い髪。右腕に撒かれた生徒会の腕章。
間違いない。
「さすが、時間ぴったりね。舞友」
「そ。ありがと、里奈」
そこにいたのは、生徒会副会長である数納里奈だった。




