試験会場
宗次郎の受験番号はイの壱六五四。会場は第四学舎だった。
入り口で受験番号を確認し、校内に入る。廊下に漂う空気はいつもと全く違う。和気あいあいとしている生徒は皆無。実に静かで厳かだった。
教室に入り、机に張られた受験番号を確認しながら自分の席を探す。
━━━あった。
宗次郎の席は廊下側の真ん中あたりだった。席について筆記用具を取り出す。
近くに座っている生徒は教科書か問題集とにらめっこしている。隣に座る女性とは胸の前で何かを握っていた。お守りだろうか。
これが授業なら近くに座る生徒と会話したりしていた。学院に来た当初は周りに人だかりができていたのが、今となっては懐かしい。
━━━最初は現代語からだったな。
カバンの中から現代語の教科書を取り出す。最近のテストで解けなかった問題について改めて見直さなければ。
「あ」
取り出したところで後ろから肩をたたかれた。振り返った先にいたのは、鏡だった。
頑張ろうと互いにアイコンタクトを送り、それぞれの机に目を落とす。
体が震える。
合格できる自信はある。人生の中で一番勉強してきた。
それはそれとして、これから受けるテストに自分の人生がかかっていると思うと尋常じゃなく体がこわばる。
試験開始まであと十分。命を懸けた戦いとはまた違った緊張感に、宗次郎は早く過ぎろと心の中で念じながら教科書に目を落とした。
そんな宗次郎の期待とは裏腹に、やけに長い時間が経過したかと思えば、ようやく教師が室内に入ってきた。
「えー、それではこれより試験を始めます」
メガネ姿の教師が試験の注意事項をペラペラしゃべる。初耳の情報はない。試験を受けるうえで頭に入れておけと舞友からしつこく言われれば覚える。
試験開始三分前。いよいよ用紙が配られ始める。分厚い問題とペラペラの答案。四角い枠がいくつも並んでいる。
「ふぅー」
開始一分前。宗次郎は大きく深呼吸をする。
泣いても笑っても、あとは答案用紙に頭の中にある全知識をぶち込むだけ。
「試験、開始」
髪がめくられる音が教室中に響いた。




