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日常が戻る?

 三塔学院体育祭が無事終了。近年稀に見る接戦だったこともあり、打ち上げも盛り上がった。


 後夜祭では生徒の演奏に耳を傾けたり、音楽に合わせて踊ったり。自由な夜を過ごした。


 この時間が永遠に続けばいいのに。そう思ったが、そうはいかないのが世の常。


 楽しい楽しい体育祭が終わったら、次のイベントは期末試験と卒業試験だからだ。


 学院内には徐々に緊張感が高まりつつあった。休み時間に交わされる会話の内容も、試験に関する内容が増えていく。


 そんな中、宗次郎には勉強以外で気になる点が一つあった。


「舞友さんのこと、ですか?」


 テーブルの向かいに座る眞姫に対して、宗次郎はコクリと頷いた。


 本日、宗次郎と燈は新姫の誘いを受け、例の植物園でお茶をしていた。


「試験前に最後、一緒にお話ししませんか?」


 と眞姫から提案されたのだ。


 卒業試験までまだ時間はあるし、最初に会ったときは舞友との一件でゴタゴタしてしまったため、息抜きにはいいかと思い、参加した。


 最初は燈と眞姫が楽しく談笑しているのを黙って聞いていたのだが、姉妹の仲良さげな様子に当てられて、つい不安を吐露してしまったのだ。


「最近、また避けられている気がするんだ」


 宗次郎はお茶を口にしてから告げた。


 宗次郎が勉強するようになって正武家と燈と過ごす時間は増えていったが、代わりに舞友と過ごす時間は減った。


「ご自分の勉強をしているのではなく、ですか?」


 眞姫に対して宗次郎は首を横に振った。


 生徒会のメンバーも体育祭の準備から解放されてから休む間もなく、学生の本分である勉強に勤しんでいる。生徒会の一員は落第するわけには行かないのさ、と角掛会長もぼやいていた通り、舞友も自分の勉強をしていた。


「ま、最近は揉め事も多いものね。この時期には風物詩みたいなものよ」


 もう卒業してしまった燈は生徒たちの緊張などどこ吹く風というようにお茶を啜っている。


 時期が時期なので生徒会の仕事も減るのか、と思いきやそうでもなかった。どうもこの時期になると学生同士のトラブルが増加するらしい。


 理由は単純、試験直前に溜まったストレス。日頃から貴族や平民だので鬱憤が溜まっているのに、さらに試験が近づくとなると水面下で溜まっていたストレスが爆発してしまうのだろう。


 あいつが俺の教科書を盗んだ。


 自習室で独り言がうるさい奴がいるのでなんとかしてほしい。


 カンニングができる波動具を売りつけている生徒がいる。


 などなど、普段では考え付かないようなトラブルが増加する。風紀委員も対応に当たっているが、規模の大きいものは生徒会も無視できないので対応に当たるのだ。


「会う時間が減ったのは確かにそうだけどさ。会っても、なんか妙によそよそしいんだよ」


 せっかく顔を突き合わせても、目線を逸らされることが多くなったのだ。


 以前のように刺々しい雰囲気はないのだが、明らかに避けられていると感じる。


「いつからなの?」


「うーん、体育祭が終わったあたりからかな」


「なら、負けたのが原因じゃないかしら?」


 燈にそう言われて宗次郎はガクッと頭を下げる。


「姉様、それは」


「冗談よ。あの戦いは見事だったわ。負けてしまったのは私個人としては許せないけど、内容は悪くなかったし」


 許せないけど。燈は二度同じことを言って茶器を置いた。


 燈の冗談と叱咤激励は胸にしまっておくとして、原因は確かにあの戦いで間違いはないだろう。


 けれど、肝心の原因はわからずじまいだった。


「私も舞友さんをお茶に誘ってみますね」


「ありがとう……ん?」


 宗次郎の端末が震える。


 誰からだろうと思って端末を取ろうとすると、どうやら燈にも連絡が入ったらしい。


 宗次郎の端末の画面には鏡の文字が。


 同時に燈の端末もなり出した。


「あら、舞友。どうかした?」


 燈の電話の相手は舞友らしい。


 とりあえず、宗次郎は電話に出ることにした。


「もしもし?」


「宗次郎さん、今大丈夫ですか?」


 鏡の声は焦りに満ちている。宗次郎は何かあったと直感した。


「大丈夫だ。落ち着いて何かあったのか話してくれ」


「それが、雅敏のやつが……保健室に運ばれたみたいで」


「わかった。俺もすぐに行く。場所は?」


「学舎区画にある第三保健室です」


「第三保健室だな。わかった」


「宗次郎」


 背後をトントンとたたかれる。燈だ。


「私も行くわ。同じ案件だから」


「? おう」


 鏡の連絡と舞友からの連絡が同じ案件とは意外だったが、今は納得してうなずく。


「鏡、今から波動術でそっちに行く。俺の波動符は持っているか?」


「はい。確か、まとまった空間を用意すればいいんですよね。誰もいない廊下でいい

ですか?」


「十分だ。それじゃ」


 宗次郎は端末を切って、眞姫に頭を下げる。


「悪いな。せっかく用意してもらったのに」


「いいえ。お気をつけて」


「ありがとう、また誘ってくれ」


 にっこりと笑う眞姫に宗次郎もほほ笑む。


「んじゃ、行くか」


 宗次郎は燈の手を握り、波動術を発動させた。





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