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久しぶり

 三塔学院に山ほど存在する部活の中で宗次郎が選んだのは、対人戦研究会。活動内容は名前の通り、波動術、剣術を敵の無力化及び捕縛を目的のためどのように活動するかを研究、実践する部活である。全部活の中でも昔から存在している。そしてその部活動の内容から、部員は波動庁波動犯罪捜査部に進路を取ることが多い。


「よし、今日はここまで!」


「お疲れ様でした!!」


 部長の声に合わせて部員の挨拶が炸裂し、部屋がわーんと鳴る。畳が敷き詰められた部屋に、部員数百人以上が汗をかいていた。


「ふぅ」


 宗次郎も一息ついて、手にいた刀を下ろす。


 ━━━時間は……まだ間に合うか。


 柱に立てかけられた時計は次の予定が差し迫っていると告げている。


「お疲れ、宗次郎」


「お疲れ様です、部長」


 宗次郎が頭を下げたのは、生徒会会計を務める門之園の兄の方だ。対人戦研究会の部長を務めている。宗次郎の事情も知り、なおかつ顔見知りなのも相まってこうして目をかけてもらっている。


「今日はどうだった?」


「新鮮でした」


 本日の戦闘訓練は室内の対人戦を想定して行われた。小さめの結界の中で、刀を持った相手と戦い、無力化する。それも一対一で。結界の中にはさらに小さな結界が貼られ、机や椅子などの障害物となり得る備品を再現していた。


 今までは、一人ないし二人の敵に対してこちら側がそれ以上の人数で対応する訓練をしていた。八咫烏は四人一組。波動犯罪捜査部であるなら最低でも二人一組で行動するし、捜査である以上敵は捕らえる必要がある。他の隊員との協力は必要不可欠だ。


「波動刀も小さく触れるようになったな」


「意識すれば、なんとか」


 対人戦研究会に入部してよく、宗次郎の攻撃は大振りだと指摘された。


 宗次郎が今まで戦ってきたのは妖。それも人間より大きな個体ばかり。自然とその攻撃は大きく、力強いモノになった。だが、対人戦ではそこまで大きな攻撃は必要ない。むしろ味方に当たってしまう危険すらある。相手に攻撃を仕掛けるにしろ、攻撃を振らせるにしろ、小さくコンパクトにする必要があった。


 今日のように室内で戦闘をするのなら尚更だ。


「宗次郎は素早く動けるからな。攻撃、陽動を臨機応変に動けるよう、体に覚え込ませておけ」


「はい!」


 宗次郎は時間と空間を操る波動を使う。身体能力を強化する活強も得意だ。それら三つをうまく駆使して高速戦闘を行うスタイルをとっているので、狭い室内でも使えるよう訓練するのは大切だ。


 ━━━発動してすぐに止める、を繰り返しておくか。


 活強と波動術の瞬発力を鍛える訓練内容を考えていると、門之園は時計を見た。


「この後もこの部屋は使えるが、どうする?」


「あー……」


 卒業試験では学術試験のみならず、実技試験もある。合格するためにはここで訓練を積んでおいた方がいい。


 だが、宗次郎には会わなければならない人がいる。


「すみません。今日はもう上がります」


「そうか。お疲れ」


「お疲れ様でした」


 宗次郎は頭を下げ、ロッカーに向かい、軽く汗を流す。


 宗次郎がこれから会う人物は、ある意味で苦手な相手だ。数ヶ月前には辛酸を舐めさせられたばかりである。


 ━━━まさかこの学院にいるとはな。


 宗次郎としてはそこが一番意外だった。


 だから、前に訓練場でその声を聞いた際は本当に驚いたものだ。あの場で声をかけ、話すことができればよかったのだが。


 学院内の生徒が万単位でいるせいで一週間も時間がかかってしまったのだ。


 ━━━まぁいいさ。


 訓練室を出た宗次郎は鏡からもらったメールを頼りに学舎区画へと急ぐ。


 有名になってしまった宗次郎が直接探すわけにもいかないので、鏡達にも手伝ってもらったのだ。


「ここか」


 宗次郎は待ち合わせ場所である第四食堂にたどり着いた。夕食にはまだ早い時間帯であり、学舎から一番遠い食堂でメニューも微妙なせいか、人気はほとんどない。


「間に合ったか」


「そうね。いい心がけなんじゃない?」


 時計に目をやると、柱の影から声がした。


 間違いない。訓練場で聞いた女性の声だ。


「……久しぶりだな」


「そう? 二ヶ月くらいしか経ってないじゃん」


 ふふ、と笑いながら出てきたのは人影。


 王国人には珍しい金髪をふわりと波打ったように靡かせ、悪戯っぽい笑みを浮かべた美少女。口には棒付きの飴を咥えている。制服は大胆に着崩されており、目のやり場に困る胸元やすらりとした足が見えていた。


「またあったわね。お坊ちゃん」


「その減らず口も相変わらずだな、シオン」


 人影の名は、藤宮シオン。


 かつてテロ組織、天主極楽今日の一員として宗次郎と燈を追い詰めた人物だった。



 


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