チーム戦
八咫烏の部隊は隊長が一人、隊員が三人の合計四人で構成される。この構成は討妖局であれ波動犯罪捜査部であれ変わらない。
その起源は千年前、大陸を支配する妖との戦いにおいて生み出された。
さらにそれ以前の戦国時代。波動師たちの戦いは一対一が基本であり、戦場での習わしだった。名乗りを上げ、一騎打ちを行う。実に単純にして明快だった。
しかし、そんな戦い方が通用するのは相手が人であればの話。
人よりはるかに強い妖を相手にするには、一騎討ちの戦い方は愚策でしかなかった。一説によれば、妖に大陸の半分以上を支配された原因とされている。
その点を考慮し、皇大地に仕えていた軍師・雲丹亀壕が複数人で隊を組み、妖と戦う戦法を考案したのだ。
宗次郎はにやりと口角を上げた。
「スピード、上げるぜ」
宗次郎は天斬剣を片手に走り出す。
ここからは純粋な剣術勝負となった。
斬りかかる宗次郎に対応する鏡と雅俊。
━━━あぁ。
戦い、それも真剣での勝負中だというのに、宗次郎は喜びが抑えられない。
片方が宗次郎の攻撃を受け、片方が宗次郎の隙を突こうと動く。
一人一人が弱くても、力を合わせて協力すれば格上に対応できる。
鏡と雅敏の動きにはその教えと考えがしっかりと身についているのだ。
もはや二人に緊張も躊躇いもない。どこか笑っているようにすら見える。
━━━ふはっ!
最も、宗次郎は完全に笑っていた。
宗次郎は全力を出してはいないが、真剣だ。手は一切抜いていない。
それが、こんなにも楽しい!
「らぁっ!」
「くっ!」
「わっ!」
宗次郎は大振りの横なぎを一閃し、二人を同じ方向へ弾き飛ばす。
相対する距離は十メートル以上。波動術を放つには十分な距離。
二人は刀を構えたまま一瞬だけアイコンタクトを取る。
距離があるからといって二人が同時に波動術を放っても、効果は薄い。未熟な二人の術なら宗次郎の速度を持って余裕で回避できる。
どちらか一人を前に出しつつ、波動術で援護する。これが最善。そう判断したのだろう。攻撃力の高い炎の波動を使う雅俊が前に出る。
対する宗次郎は━━━
「ふぅー」
息をゆっくり吐き、リラックスした状態のまま天斬剣を納刀した。
「「!!」」
「そう驚くなよ二人とも」
さらに息を吐き、リラックスして宗次郎は腰を落とす。
「君たち二人の強さに敬意を表し、一瞬だけ見せよう」
さらに腰を落とし、宗次郎は納刀した天斬剣の柄に右手をかける。
「全力を、な」
宗次郎は居合斬りの体制を取る。波動を練り上げ、身体中から黄金色の波動が迸る。
「っ!」
鏡と雅俊が全力で警戒体制を取る。
━━━遅い!
ほぼ同時に、宗次郎が納刀した天斬剣を振り抜く。
二人の間を黄金の閃光が駆け抜ける。
そして、ビシリと音をたてて大地が割れた。
「……」
鏡と雅俊は頬から汗を流しながら、自分の真横を通り過ぎた斬撃の後に視線を向けている。
「空刀の壱 空斬り」
その斬撃はあらゆるものを両断し、その神速の動きは何者も捉えられなかった。
『王国記』において伝説の英雄、初代王の剣こと穂積宗次郎の強さはこう記述されている。
その一端、あらゆるものを両断する斬撃の正体は、空間ごと切り裂く攻撃だ。
斬る対象が空間であるため防御ができず、また広範囲に斬撃を拡張できる。
その証拠に、宗次郎と二人の間にある距離は十メートル、さらにその奥の十メートル先まで地面に亀裂が走っていた。
「「参りました」」
鏡と雅俊。どちらともなく戦意を喪失させた。
「ありがとうございました! 戦えて光栄でした」
雅俊がため息をつきいているが、その顔はどこかやり切ったような爽やかさがある。
「感服しました。さすがですね」
鏡は目をキラキラさせながらこちらに駆け寄ってくる。まるで少年の笑顔だ。
「こちらこそ、戦えて楽しかった。二人ともいい動きをしてるよ」
二人の握手に応じながらそういうと、照れ臭そうに笑ってくれた。
「いえ、そんな」
「貴重な経験でした」
「謙遜するなよ。ほら」
あたりを見渡すと、ギャラリーが拍手を送っていた。
もし宗次郎がただ活躍するだけではこうはならないだろう。鏡と雅俊が真剣に、全力で戦ったからこその、純粋な賛辞だった。
「俺からも礼を言わせてほしい。ありがとう。楽しかった」
「っ……いえ!」
目元を拭う鏡。雅俊は口元が緩まないように必死になっている。
この反応だけでも、宗次郎は戦えてよかったと思った。
━━━ふぅ。
体を動かし、精神的にもリフレッシュできた。おかげで体が軽くなった気がする。
「よし、そろそろ時間かな?」
「あと十五分ほどですね」
雅俊が備え付けられた時計を見やる。
「短い試合ならできるか。どうする? もう一回やるか? それとも━━━」
宗次郎が闘技場の外に視線を向けると、ギャラリーの生徒たちが声を上げ出した。
「自分も! 自分も手合わせお願いします!」
「私もいいでしょうか!」
「恐れ多いのを承知の上で、一対一でもいいですか?」
盛り上がるギャラリーたち。次は自分がいいと雛鳥のように騒ぎ出す。
━━━そりゃ、さっきの戦い見たら自分もって思うよな。
宗次郎はさらにうれしくなった。
「よし、じゃあ」
「兄さん!」
まだ。もう少し。戦いを楽しみたい。そう思った宗次郎の元へ飛び込んできた鋭い声。
いもわず震える体。声のする方へゆっくり顔も向けると。
そこには、憤怒の形相で仁王立ちしている舞友がいた。




