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初登校 その3

「……それでは。今日の授業はここまで」


「ありがとうございました!!」


 午後零時。二限の授業が終わり、教師と生徒が挨拶をする。


「う、うぅん……」


 挨拶が終わると同時、宗次郎は崩れ落ち、机に突っ伏す。


 ━━━つ、疲れた……。


 一般教養と語学。本日予定していた授業を全て終わった。


 組んだ腕に顔を沈め、ハァァと長くため息をつく宗次郎。熱気を耳に感じ、脳天がオーバーヒートして煙を出しているような錯覚を覚える。


 授業自体は無事に受けられた。ついていけないようなこともなかった。


 ━━━いや、あれは違うか……。


 担当してくれた教師は宗次郎が記憶喪失であると知っていたのだろう。難しくないか、わからないところはないか。しきりに宗次郎に確認を求めてきた。


 それなのに、宗次郎はこの有様である。


 ━━━すげぇなぁ。


 突っ伏した宗次郎の耳には、楽しそうに会話する生徒たちの声が聞こえてくる。


 あれだけ難しい内容の授業を一時間以上も聞いて、まだそんな元気があるなんて。しかも生徒によっては一日に五限や六限も連続で授業を受ける者がいるという。


 ━━━人間じゃねぇ。


 とりあえず今日の授業は終わった。この教室で次の授業があるかは知らないが、時間がある限り少し休もう。


 そう決めた直後、


「あ、あのっ!」


「?」


 顔を上げると、机の側に男子生徒が一人立っていた。


「穂積宗次郎さんですよね?」


「あ、ああ。そうだよ」


 宗次郎は上半身を起こし、男子生徒を見つめる。


 切り揃えられた黒い髪と黒い目は、おとなしそうな印象を与える。体格は普通。波動の質、量も普通だ。これといって特に特徴のない、パッとしない青年だ。声もうわずっており、明らかに緊張していた。


「俺、五年生の鏡っていいます! 初めまして!」


「お、おう」


 差し出された手を握り返すとぶんぶん上下に振られた。


「一度お会いしたいなーって思ってたら、まさか同じクラスだなんて!」


「そ、そっか」


 本当に嬉しそうな表情を浮かべる鏡に、宗次郎は戸惑う。


 ━━━そういや、皐月杯の決勝はテレビで見てるんだっけか。


 玄静と死力を尽くしたあの戦いのおかげだろうか。鏡以外の生徒も、話したそうにこちらを見ている。


「あ、ごめんなさい! 俺ばっかり話して……すみません!」


「いや、いいよ。ありがとう」


 急に話しかけられたのは驚いたが、宗次郎は自分の心が軽くなっていくのを感じた。


「こら、鏡! 抜け駆けはずるいでしょ!」


「そうだぜ。どう考えてもお疲れだったろうが」


 鏡の友達だろうか。ふわりとした赤髪をサイドアップテールにした活発そうな女子生徒とロン毛を頭の中央で割っていて眼鏡をかけた長身の男子生徒が会話に加わる。


「いやぁ、どうしても我慢できなくなっちゃって」


「気にしないでいいよ。少し気が楽になった」


「本当ですか? 鏡のやつ、空気が読めないから」


「おい、そんな言い方はないだろ!」


 はははと笑い合う生徒たちに、宗次郎も自然と笑顔が浮かんだ。


「穂積さん、あの、よかったらなんですけど……」


「ん?」


 鏡がモジモジしながら、こう提案してきた。


「よかったら、お昼、一緒に食べません?」


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