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初登校 その1

 宗次郎が三塔学院に来て、一週間が経過した日の朝。


 布団の上で目を覚ました宗次郎は、


「はぁ……」


 大きくため息を吐いた。


 体が重い。疲れ切っている。波動の反応も鈍い。


「……あ」


 布団から出て、宗次郎は今日の予定を思い出した。


「今日か。授業に出るのは」


 感情のない声でぽつりと呟いた。 


 当初は舞友の言う通り、三日後に出席をする予定だった。それが倍も時間がかかってしまった。


 手続きが大変だったのではない。


 宗次郎の学力レベルがあまりにも低すぎたからだ。


 結果が惨憺たるものであるくらい分かっているが、どうやら宗次郎が想定しているよりも状況は悪いらしい。


 どうやら舞友が用意した問題は卒業試験と比べるのも烏滸がましいほど初歩的なものだったらしい。卒業試験をクリアするなら満点近い点数は取れて当たり前だとか。


 なのに宗次郎の平均点は二十を下回っている始末だ。


 その壊滅的な結果は、生徒会のメンバーにかなりの動揺を与えた。


 副会長の里奈は知的な雰囲気を消しとばし、口を半開きにし。


 寡黙で野生的な会計の憙嗣は若干目を見開いて。


 いつもにこやかで可愛らしい憙嗣の妹、朱里は苦笑い。


 そして生徒会長の角掛は、


「まぁ、うん。がんばれ」


 と雑なフォローをしてきた。


 あの会長が。名前の通り明るく元気で、飄々としている生徒会長が。


 どうしたらいいのかわからない、困惑し切った顔で、だ。


 この一連のやり取りは宗次郎の心にかなり傷を負わせた。自分が馬鹿だという自覚はあるが、それを他人にとやかく言われたり、がっかりされたりと反応されるのは辛い。


 自分にだけ降りかかるのならばいいが、主である燈や舞友が申し訳なさそうにしているのは本当に心にくる。


 さらに成績は正武家を通じ、各教師陣と学院長に伝えられた。


 その結果、流石にこの成績で授業に出すのはどうなのか、という意見が多数上がったため、宗次郎の出席が遅れたのだ。


 何度も説明があった通り三塔学院の授業は必須科目を除き選択制だ。通常なら四月に選択し、八月に行われる定期試験に合格することで単位を得る。


 今の季節は五月も半ば。この中途半端な時期に授業に参加してもついていけないのではないか。あまりに成績が低いと、他の生徒にも影響が出るのでは。教師陣からそう心配する声が上がったらしい。


 なので、授業に出席するために最低限の知識をたたき込んでおく必要があった。入学自体の手続きは三日で終わっても、授業の出席が伸びた理由がこれである。


「……」


 宗次郎は壁に立てかけられた制服に目をやる。


 新品らしく襟は正され、折り目もきれい。シミや汚れは一つもない。


 この制服に袖を通す未来に胸を躍らせていたのに、今はとても疎ましく感じる。


 一日十時間勉強する。


 試験の結果に激怒した舞友はそう宣言し、この一週間は宣言通りになった。


 朝起きて飯を食ったら参考書を開き、昼飯を食べたら問題集を解き、夜ご飯を食べたらその日の復習。部屋から出られず、波動の訓練も剣術の鍛錬もできなかった。


 文字通り勉強漬けの一週間だったのだ。


 ━━━地獄だったなぁ。


 思い返すのもおっくうになる宗次郎。


 ただただ勉強するだけなら、ここまで疲労はしなかっただろう。成績が低い自覚はあるし、それを何とかするためにここにいるのだ。


 何がきつかったかといえば、教育係が舞友だったことだ。


 関係性がギスギスしているせいか、それとも成績が悪いせいか。とにかく舞友はとてもイライラしているようにみえた。そんな舞友と部屋で二人きり、それも長時間。精神的にはかなり応えた。


 舞友が授業や生徒会の仕事でいないからといって、宗次郎に休みはない。代わりの教育係は燈だ。舞友と違ってやたらと上機嫌なので精神的には楽だが、その分教える内容がきつかった。


 きっとこの地獄は、授業が始まっても続くのだろう。


「……行きたくね〜」


 ぽつりと出た宗次郎の呟きは、誰に届くこともなく空気に溶けて消えた。



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