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探し求めて その2

 少女の光を反射する瞳に映る自分を見つめる宗次郎。


「?」


「……」


「あのー、何か?」


 じっと見つめられると居心地が悪い。宗次郎は居た堪れなくなって声を発したが、無視された。


 ━━━あれ? 


 こちらを見つめる顔に見覚えがないはずなのに、どこかで既視感を抱く宗次郎。


 前も、こうしてじっと見つめられた気がする。


 千年前だったか。現代にいたときだったか、思い出せないけれど。


「あなたは」


「?」


「あなたは、どうしてここにいるの?」


 宗次郎は後頭部を掻いた。


「……人を探しているんだ」


「人?」


「あぁ」


 燈を探しに宗次郎はここまできたのだ。


 ━━━探し出して、その先はどうするんだ?


 自分でした問いかけに、宗次郎は黙り込む。


 燈との約束は守りたい。剣になるのはもちろん、燈の”初代国王を超える王になる”という目標を応援したいと思っている。


 同時に、大地との約束も守りたい。未だ内容すら思い出せていないが、千年前に交わした友との、大切な約束なのだ。


 どちらかを選ぶなんてできない。できるわけがない。


 そんな中途半端な状態で燈に会っても、意味がないのではないだろうか。


「人探しより、もっと深刻な悩みがありそうね」


「……まぁ」


「話してみなさい。おねーさんが聞いてあげる」


 腰に手を当て、ムンといいながら胸を逸らす少女。


 ━━━年上て。


 思わず心の声が喉まで出かかったが、それよりも明らかに年下の少女に慰められていると気づき、辟易する。


「うーん、なんていえばいいかな」


 一から話すと日が暮れてしまうので、かいつまんで説明しようと頭を回転させる。


「俺は、迷っているんだ」


 しばらく考えて、口からこぼれた声はひどく掠れていた。


「大切な、命に変えても守りたいものが、二つあって。そのどちらかを選ばなきゃいけないんだけど、俺には選べそうもないんだ……って話聞いてる?」


 少女はめんどくさそうな表情をしながら、髪の毛を指でクルクルと弄んでいた。


「やっぱり聞かないとダメ?」


「いや……うん。聞かなくていいや」


 がっくりと項垂れる宗次郎。


 ━━━何やってんだ、俺は。


 いくら悩みがあって困っているからといって、こんな少女に聞かせて何になる。


 自分で解決しなければならない問題だろうに。


「……つまらないわね」


 顔を上げると、相変わらず眠たげな瞳に捉えられる。


「つまらないし、臆病ね。詳しく聞く気が失せる。はっきりいってクソ。あなたの顔みたい」


「……いってくれるな」


 大人の対応として、最低限の感情の発露で済ませる宗次郎。


「だって、悩んでいるだけじゃない」


「だけって。君だってお菓子に何を食べるか悩んだりしないのかい?」


「しない。だって悩んだことがないから」


「!?」


 宗次郎は一歩足を下げたくなる衝動に駆られる。


 ぼんやりとした少女から言い知れぬ威圧感を感じた。


「悩んだことがない、か。大きく出たな」


「そう? 迷う暇があれば調べるか、試しに行動してみればいい。自分の探究心に従っていれば悩みはなくなるわ。あなたはどうなの?」


「どうって……」


「あなたの悩みは本当に悩む必要があることなのか、ちゃんと確かめたの? と聞いているのだけれど」


 痛いところを疲れて宗次郎は口をへの字に曲げる。


「それらは本当に命より大切なものなの?」


「もちろんだ!」


「じゃあ、どちらか一つ選ばなきゃいけないものなの」


「……それは。まぁ」


 言葉に詰まる。


 ━━━あれ?


 少女の問いかけによって、生まれた疑問。


 燈は宗次郎が初代王の剣だと知っている。正体が発覚したとき、宗次郎は燈にこう告げた。


 燈の剣になってから、大地との約束について考える。


 それに燈は頷いた。意を唱えなかった。


 ━━━あ。


 そこまで考えて宗次郎はピンときた。


 燈が不機嫌になった大元の原因は、約束が二つあることではない。


 宗次郎にとって大地がどれだけ大切な人間か、燈は知っている。宗次郎に大地との約束を反故にしろなどと言いはしない。


 原因は、柳哉に大地の面影を重ねた事実そのものなのではないだろうか。


 燈と柳哉は玉座をかけて争うライバル関係にある。幼い頃は何をやっても勝てなかったと言っていた。


 宗次郎はそんな柳哉に心惹かれていたら、燈は気が気でないだろう。もしかしたら柳哉の方に鞍替えしたいのでは、と疑われても致し方ない。


 本当の選択肢は、燈を選ぶか柳哉を選ぶかなのだ。


「そっ、か……」


 何が原因なのかがはっきりして、宗次郎の心が軽くなる。


 心なしか、少女の顔つきも穏やかになったような気がした。


 ━━━ってことは、俺がやるべきことは……。


 目の前の少女は、悩む必要があるのかどうか確かめろと言った。


 燈か。柳哉か。その選択肢で悩むのは、柳哉が大地にあまりにも似ているから。


 なら、宗次郎が確かめなければならないことは、柳哉についてだ。


「っ……」


 息を呑む。


 もし本当に何もかも大地と同じだったら、と思うと怖い。戦いで味わった、死ぬかもしれないという恐怖よりも恐ろしい。


「もう一つ、聞いてもいいかな」


「……なに?


「そっくりとか似てるってレベルを超えて、完全に同じ人間がいるなんて、あり得ると思うか?」


 口にして宗次郎は少し後悔した。


 ━━━何を聞いてんだ俺は。アホか。


 そんなものいようがいまいが、宗次郎が確かめない理由にはならないだろう。


 ━━━にげるわけにはいかねぇぞ、俺!


 現状を打破するための打開策を思いついた。怖気付いている場合ではない。


 そう気合を入れた宗次郎の目の前で、少女は腕を組んで考え込んでいた。


「……」


「あの、もしもし?」


「なかなか興味深い話題ね」


 アホみたいな話題だと思っていたが、少女の食いつきが予想外にいい。むしろ一番生き生きしている。


「たとえば遺伝子が似た双子でも、全く同じなんてありえない。からなず差異がある。外見だけでなく、中身までそっくり

な人間を作り出せるとしたら━━━」


 ぶつぶつとつぶやく少女。


 宗次郎は完全に置いてけぼりだ。


 ━━━すごい探究心だな。


 と感心すると同時に、宗次郎にもこの考え方が必要なのではないかと考える。


 本当に何から何まで似ているのか、徹底的に検証してやろう。


 怖くはあるが、できるかどうかという不安はない。


 大地については誰よりも詳しい自信がある。一つ一つ、じっくりとやっていこう。


「……おし!」


 パン! と頬を叩く。


「ありがとう。おかげでスッキリしたぜ」


「そう。なら早く行きなさい、若人」


 いまだに歳上ぶる少女に、もはや怒りはない。わずかな苦笑が漏れるだけだった。


「それと」


「?」


「あなたの探している人は、来た道を戻って二つ目の角を右に曲がれば、会えると思う」


「そうなのか?」


「乙女の感よ」


 フフン、と偉そうに胸をはる少女。


「わかった。ありがとう。それじゃ」


 少女に頭を下げる。


 ━━━どうせ行く当てもないのなら、世話になったこの少女のいうとおりにしてみよう。


 宗次郎は回れ右をして、足早に歩き出す。


「頑張って、宗次郎」


「え?」


 少女に名前を呼ばれて振り返る。


 しかし、そこには誰もいなかった。


 ━━━俺、あの子に名前を言ってないような……。


 どうして名前を知っているのか。既視感を感じたから、やはりどこかで会っているのだろうか。


「って、自己紹介し忘れてた」


 相当切羽詰まっていたな、と反省し、宗次郎は前を向いた。




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