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王とは その1

 柳哉の提案により、王子と王女による話し合いの場が設けられた。


 議題は『自分が次の国王になったらこの国をどうしたいのか』。王族である出席者にとっては存在の核心をつくような、避けて通れない命題だった。


「私から始めていいかしら。柳哉お兄様」


「もちろん。元はと言えば瑠香から始まっているからね」


 提案者である柳哉から始めると思いきや、先方は瑠香からだ。


「前々から言っている通り、私たち王族は人の上に立つ存在であるべきと思っているわ。故に誰よりも優雅で、華麗でなければならない。下々の国民や貴族たちの憧れを一新に集める存在こそ、国王のあるべき姿よ」


「……それで毎日遊んでいるわけですか?」


 綾が呆れ返ったように言うと、瑠香は即座に反論した。


「もちろんよ。人の上に立つ存在が貧乏くさい格好をしていたら、どう思われるかしら」


 瑠香は柳哉や歩のように国政には全く関わらない。普段何をしているかといえば、こうして茶会を開いたり、和歌を詠みあったり、衣装のお披露目会をしたりしている。


 真面目な綾からすればただ遊び、金を浪費しているようにしか見えないのだろう。


「では、内政や財政については考えないと?」


「そうよ。だってそれは、貴族たち家臣の考えることでしょう」


 柳哉の質問にも瑠香はあっさり答えてみせた。


「内政、財務、法律、軍事、警察、文化科学、農業、経済。それらは国の運営に必要なものであっても、国王がしなければならないことではないわ。だってその道に詳しい貴族がいるんですもの。違って?」


 瑠香は柳哉、綾、歩、燈の順番に顔を見つめながら言い放つ。


「私が口を出すより彼らに任せたほうが国民のためになるわ」


「それで普段は遊び呆けているのか」


「そう見えるのならそれで結構よ。私は国王になっても、今のやり方を変えるつもりはないから」


 その返答に歩と綾は呆れ返り、ため息をついた。


 確かに遊んでいると言えばその通りだが、燈はそれだけではないと知っている。


 以前、瑠香から強引に衣装の発表会に参加させられたことがあった。


 波動術の訓練をしたかったのにと乗り気はまるでなかった。今の歩や綾のように、どうせ瑠香は遊んでいるのだとばかり思っていたからだ。


 その予想は見事裏切られることになる。


 瑠香は発表会に訪れていた貴族と積極的に交流を図っていた。上流階級、下流階級に関わりなく。内容の都合上女性が多くはあったものの、周囲の話に積極的に耳を傾け、叱咤激励していたのをよく覚えている。


 遊んでいるように見えて、瑠香は人脈を広げていたのだ。王族は人の上に立って当然の存在と豪語する瑠香だが、下にいる人間を見下すようなことはしない。優秀な人間にはそれなりの地位と権力を持たせ、好き勝手にやらせるつもりなのだろう。


 確かに瑠香の言う通り、各分野のプロフェッショナルに委ねることは大切だ。優秀な人材を登用するのも、王たるものの勤めとして間違ってはいない。


 ━━━でも。それでは結局、今と何ら変わりはない。


 燈は父の顔を思い出す。


 父の剣である大臣は優秀な政治家だ。個人的な感情は抜きにして、燈自身そう思う。故に内政に関して父は全面的に大臣に任せている。先代も、先先代の国王も同じようにしてきた。


 その結果はどうだ。


 国王の権力はどんどん低下し、貴族たちは増長し、その皺寄せは国民に降りかかっている。年々増える税金がその証だ。


 瑠香や父のやり方は一見素晴らしいように思えるが、重要な前提条件が二つある。


 一つは、貴族が真に優秀かどうか見抜く目があること。


 もう一つは、貴族が王国に絶対の忠誠を誓うことだ。


 優秀な貴族に任せればいいというが、その優秀さはどうやって判断するつもりなのだろうか。


その腹の中に何を考えているのか、どうやって判別するつもりなのだろう。


 その辺りは父も瑠香も全く考えていない。あって当然と考えているからこそ、何もかも人に任せると言う判断ができるのだ。


「他に何か言うことはあるかしら?」


「……」


 挑発的に笑う瑠香に、燈は無言のままだ。


 先ほどの考えを伝えたところで、瑠香はきっと考えを改めない。


 王城から出ず、貴族たちの相手しかしていない瑠香に国民の窮状などわかるはずもないのだから。


 諦めにも近い確信を抱きつつ、燈は内心ため息をついた。



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