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祝宴の席にて その8

 ドクン、ドクンと心臓の鼓動が鼓膜に響く。


 聞こえてくるのは早歩きになっている自分の足音と、荒くなった呼吸音。周囲に人影はなく、風もなかった。


 月明りが廊下を照らし出し、朱く塗られた柱と相まって、風流を感じられる。


 しかし、燈にその余裕はなかった。


「はぁ、はぁ」


 足音を立てないよう早歩きをしているだけなのに、息が切れた。柱に手をついて一休みする。


「龍哉第一王子が、皇大地と瓜二つだった」


 宗次郎が玄静に相談していた言葉が頭の中でガンガンと響き渡る。


 宗次郎は千年前に活躍した英雄、初代王の剣だ。主であり、自分の先祖である皇大地を大切に思っているのは知っている。


 知っているし、割り切っていた。


 はずなのに。


 燈は瞳から零れる涙を止められなかった。


「……っくぅ」 


 何とかして涙をぬぐい、歩き出す。


 足に力が入らない。魂が抜けてしまったように体が思い。


 廊下の角を曲がると、向こうに本伝が見えた。端のほうに漏れた光が見える。あそこが大広間だ。


 祝宴の席に戻らなければ、と理性が言う。


 この席は宗次郎たちの活躍を祈念して行われている。にもかかわらず、今宗次郎も燈も玄静もいない。由々しき事態だ。


「……」


 燈は踵を返した。涙で晴れた顔ではなにより、今の精神状態では戻れるはずもなかった。


 ━━━ここは……。


 ふらふらと歩きついた先は、一つの部屋だった。


 燈の妹、眞姫が過ごしていた部屋だ。


「……!?」


 扉に手をかけると、開いた。てっきり鍵がかかっていると思っていた燈は少しだけ驚く。


 眞姫は三塔学院にいる。戻ってくるのは年に一度か二度なので、部屋の中は清掃されすぎて人気がなかった。


 中に入るとひんやりした空気に包まれる。


 ━━━懐かしい。


 体が弱く、病気がちだった眞姫を燈は溺愛していた毎日のように一緒に遊び、笑いあって。誰よりも大切な妹だと胸を張って言える。


 夜、眞姫の部屋に忍び込んでは本を読んであげたことがあった。


 『初代国王を超える王になる』


 燈の夢は、妹と交わした約束から生まれたものだ。『王国記』を読み終わったときに交わした、大切な約束。


 心を温めてくれる思い出がいくつもある。そのはずなのに。


 ━━━あぁ。


 なにも、感じない。


 すべてがどうでもよくなっていく。今までの情熱が嘘のように、心感覚が虚無に落ちる。


 心が凍てついて、動かなくなる。


 ━━━そうだ。


 この虚無感には覚えがある。母が殺され、妹の目が見えなくなったあのときと、全く同じ。


「あはは」


 乾いた笑いが漏れた。


 ここに来る前。装甲車の窓から王城を見て孤独感を覚えたのを思い出す。


 自分は何を血迷っていたのだろう。


 私は皇燈。第二王女にして十二神将の一員。


 そして━━━


「ふふ、あはは」


 乾いた笑い声が、部屋の中に響いた。




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