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祝宴の席にて その5

「あら、面白そうなお話ね」


 その声は高圧的で、まるで蜘蛛の巣のようにべたべたした声をしていた。


 宗次郎が振り返った先にいたのは、豪華さが服を着て歩いているような女性だった。


 癖のある紫色の髪が足元にまで届いている。服装はきらびやかそのもので、黒色の下地に色とりどりの華、鳥などが描かれている。そのち密さは明らかに目立っていた。


 顔立ちは声と同じく高圧的だ。釣り目に傲慢な笑みを浮かべている唇。美人であるのだが、見ほれるよりも先に恐怖心が来た。


 ━━━すっげ。


 資料の顔写真からして派手なのはあらかじめわかっていたが、実際目にすると圧倒される。


 初対面の燈に抱いた、冷たく人を寄せ付けないオーラとは似て非なる。文字通りただ上から見下ろされるような気分だった。


「燈じゃないの。相変わらず武骨な恰好ね。美しくないわ」


瑠香るかお姉さま。お変わりないようですね」


 ━━━いきなり暴言かよ。


 宗次郎は内心ドン引きした。


 あまりの態度にあの燈も苦笑いを隠しきれていない。


瑠香るか、来ていたのか」


「ええ。歩お兄様。せっかくの祝宴でしょう? お洒落できる機会だから出てきたの」


瑠香るかお姉様、とってもお綺麗です!」


「巧実の言う通り、お綺麗ですわ」


「ふふ、そうでしょう。巧実、綾。二人ともありがとう」


 彼女の名前は皇瑠香。皇王国の王位継承権第二位にして、第一王女である女性だ。


 資料によれば、第一王女として生まれた誇りが非常に高く、努力を惜しまない性格らしい。その分王族の特権をフル活用し、私生活は非常に贅沢を凝らしているそうだ。


 そして、性格は燈曰く……


「燈。あなたいつまで八咫烏を続けるつもり? 天主極楽教を追うのも結構ですけど、王族としての務めをないがしろにしているのではなくて?」


「姉上。お言葉ですが、国を蝕むテロリストに対処するのは王族の務めといえるのではないでしょうか?」


「違うわ。もう、何度も説明したでしょう?」


 燈よりも長い髪をなびかせて、瑠香は優雅に微笑んだ。


「いい? 花はね、そこにあるだけで美しいといわれ、愛され、賞賛の声を集めるの。私たち王族もそれとおなじ。生まれながらにして当然に人の上に立つ存在なのよ。剣術や波動術だなんて野蛮な……そんなものは、八咫烏たちに任せておけばいいの」


「……」


 燈と同じく、宗次郎は言葉が出なかった。


「燈、あなたの頑張りを否定するつもりはないの。初代国王を超える王になるっていう目標も、素晴らしいと思うわ。でもね、そのために戦い続けるのは、私どうかと思うの」


「……」


「ねぇ燈。この機会に刀を置いてみる気はない?」


「……なぜ、この機会なのですか?」


「あら? 燈、彼を剣にするのでしょう?」


 話題が急に自分の内容になり、宗次郎はつい体がピクリと反応する。


「天斬剣の持ち主が剣になれば、あなたが最前線で戦う必要はない。違って?」


 ここで瑠香の視線が宗次郎を捉える。


「あなた、燈の剣になる……ええと」


「穂積宗次郎です」


「そう。あなた……」


 宗次郎はただ名乗っただけなのに、なぜか瑠香はため息をついた。


「燈の剣になるのなら、もっと強くなりなさいな。自分の主を八咫烏として戦わせるなんて、恥ずかしいと思わないの?」


「……善処します」


 宗次郎は自分の心情が表情に出てもいいように頭を下げるのが精いっぱいだった。


 ━━━う、うぜぇ。


 燈から瑠香ついてあらかじめ聞いていた。


 説教臭い。


 心底嫌そうな顔をしながら燈がつぶやいた一言は、まさしく正鵠を射ていた。


「こら瑠香。そういう言い方はよさないか。燈には波動の才能が誰よりもあるんだ」


「歩兄さま、だからといって王城に全く帰ってこないのは、どうかと思うの」


「別にいいのではないですか? それを言うなら瑠香お姉さまに無駄遣いをやめていただきたいですね」


「相変わらずがめつくてケチね、綾は。そんなだから地味で目立たないのよ。人の上に立つ私たちは常に余裕を持つべきなのよ」


「ケチではありまえん。私は贅沢に慣れるのが嫌いなだけです」


 広間の中心に王族たちが集まり、それぞれが己の主張を展開する。


 ━━━こいつらみんな大地の子孫なのかぁ。


 祝宴の前にした墓参りのせいか、みょうな感慨深さに包まれる宗次郎。


 法や規則を遵守することを重んじる第二王子、皇歩。


 人の上に立つのは当然として贅沢を好む第一王女、皇瑠香。


 金銭こそ重要と考える第三王女、皇綾。


 自動車や鉄道など産業に対して造詣が深い第五王子、皇巧実。


 そして、初代国王を超える王になる目標を掲げている。皇燈。


 王位継承権を持つ王族全員が集合しているわけでもないのに、メンツの濃さは胃もたれを起こしそうだ。


 流石に千年も経っているので大地の面影を残す者は皆無なのは仕方がない。むしろ残っていたら奇跡だ。


 大地の墓に訪れた際にも抱いた仄かな期待。もしかしたら大地と交わした約束を思い出せるのではないか。


 大地の子孫である王子たちと出会えばもしかしたらと思ったが流石に無理だった。


 ━━━ま、しょうがないか。


「第一王子のご到着です!」


 大広間の中心で言い争いを続ける王族たちの喧騒をものともしない、門番の大声が響いた。





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