今週の農民具アーップ!(終)
目覚ましが鳴り、最後の朝がやってきた。
今日、私が通う県立朝陽農業高校では卒業式と閉校式が同時開催される。
少子化・離農の影響で廃校が決まったのが3年前。
私が所属する放送部は後輩が入らないまま先輩達を見送り続け、今は私、ミキ、サオリ、ケイコの4人だけ。今日が最後の活動となり、私達が立ち上げた地域密着型農業番組も午後の配信で最終回を迎える。
卒業後も個人的に続けることだって考えたけど、進学・就職・結婚…と仲間の進路がバラバラでスケジュールが合わず、やむなく終了することとなったのだ。
布団から出て制服に着替える。3月とはいえ朝はまだ寒い。コートを着ると家を出た。
式が終わり放送室に入ると皆はもう揃っていた。
「ゴメン、遅れた!担任がさぁ……って、何かあった?」
不穏な空気が漂う中、皆の視線の先には部唯一のパソコンがあった。
「何度も試しているけど壊れて起動しないの。どうしよう、もうすぐ配信の時間なのに…!」
顧問から譲り受けた中古品だったので時々不安定な時もあったけど、最悪なタイミングでのトラブルに頭が真っ白になった。
急いでスマホを取り出し、隣接する工業高校のタカヤに電話をする。彼のほうも卒業式が終わっていたのですぐに来てくれた。
「……ダメだな、完全に壊れてる。修理に出しても時間かかるぞ」
今日のために撮った動画データもパソコンの中。配信日を変更して撮り直したいけど、ミキは夕方から上京する予定で時間がない。
「なあ、今日流す予定の動画ってお前らが今までの感謝とかしゃべっているやつだったよな?」
「うん。前回までの映像をバックにうちらがコメントしているの」
編集が大変だっただけにデータの消失はかなり痛い。
「じゃあさ、今日はここから放送したらどうよ?」
「校内放送にするってこと?」
「校庭にも流すんだよ」
いいのかな?と私達は顔を見合わせた。
「いいじゃん、放送部なんだし。おまけにここは高台にあって、ボリューム上げれば町中に響く。ちょうどいいだろ?」
確かに私達の番組を観てくれているのはうちの生徒か町の農家の方々だけ。感謝を伝えたい人達へ届けることは出来る。
「……そうだね。最後だし、私達の声を直接届けたい!」
私はボリュームのつまみを最大限に上げ、マイクに向かうと大きく息を吸った。
「今週の農民具アーーーーップ!」
「タイトルは面白そう!」の「農民」へ投稿した作品です。
ありがたいことに「なろラジ」で採用されました。
今回の大賞に応募するため、あらすじを膨らませて1つのお話にしました。
気に入ってくださるとうれしいです。