聖女ちゃんずぼっとな。
俺がお祈りして、お辞儀をし、頭を上げたとき。ツェツィリーちゃんはまだ祈りの最中だった。
頭を下げて瞳を閉じ、手を合わせる。その所作は洗練されており、真摯な想いが祈りに込められているのが傍から見ていても分かる程であった。
……これが聖女か。
いや、無信心な俺でも心打たれるわ。
彼女の邪魔にならぬよう、そっと横にずれて待つこととした。
しばし待っていると、ツェツィリーちゃんは夢から覚めるように瞳を開き、頭を下げてからこちらを見た。
「おまたせ しました」
「いや、大丈夫だよ。真剣にお祈りしてたね」
「はちまんさまに あいさつして…… そうだ きょーすけ
はちまんさま ひとりじゃない?」
……いや、すげーわ。そういうのまで分かるのか。
俺は頷いた。
「八幡様そのものはひとりの神様だけど……」
ほんとは一柱って言わないとダメか?まあいいな。
「八幡神社は複数の神をお祀りしている」
ツェツィリーちゃんは頷いた。
そのまま俺の手を引き、木立の陰へと引き寄せる。
「はちまんさま なんの かみです?」
「この国の神話と歴史の狭間の王にして武の神だな」
「うみ みず ではない?」
「違う。でもこの国はあらゆるものに神様が宿っているような信仰だから、海の神にも祈っているのかも」
ツェツィリーちゃんはじっと考えて呟いた。
「ここの ちから わずかに うみある ほんとうに すこし」
「ふむ」
「つまり……」
ツェツィリーちゃんの体が一瞬煌めいたかと思うと、右手が真横に突き出された。
ずぼっという音と共に、彼女の右肘から先が消失する。
「は?」