聖女ちゃんとぱんやさん。
26号線を渡って商店街。この時間だとコンビニと『パン工房こみね』くらいしかやっている店は無い。
薄暗いアーケードの中、煌々と灯りのついた店に入る。
「いらっしゃいませー……」
レジの店員さんが固まった。彼女や他のお客さんが、なんかスゲー可愛いのが来たって目でこちらを見つめている。
うむ。俺が軽く頷き、ツェツィリーちゃんがにこりと微笑むと、お客さんたちは慌てたようにパンの物色に戻る。
焼き立てのパンの香りが鼻をくすぐった。なるほど、こんな時間に来たことはなかったが、朝のパン屋はこんなに美味しそうな香りがするのか。
ツェツィリーちゃんも鼻をぴすぴすと動かす。
「おいしそうな におい」
「美味しそうだねー」
棚や机の上には所狭しとパンが並べられている。
高級なパンは無い。どれも安価で100円~200円くらいの昔ながらの、なんというか昭和的なパンである。いや、昭和を知ってるわけじゃ無いけどさ。
俺はトレーとトングを取ると、まずはいつもの食パンを手にした。
「きのうの ぱん」
「そうそれ。ツェツィリーは他に何か食べたいのある?」
彼女は固まる。
「おおすぎて わからない
きょーすけ おすすめ ある?」
うーん、そうだなぁ。
「この店はあんパンが人気かなー。後は何か気になるのでも?」
「じゃあそれとー……」
ツェツィリーちゃんは棚をじっと眺め、ぴきーんと目を光らせた。
「あれ! あのうねうね!」
ふぐっ、と店員さんが笑いを堪える声がする。
俺はそれをトングで摘まんで言った。
「これは、チョココロネという」
「ちょここころね」
「チョココロネ」
「ちょこころね」
うん。