聖女ちゃんと朝のおさんぽ。
ツェツィリーちゃんと家の外に出る。
「ん」
彼女はこちらに手を差し出した。
俺のサンダルを履いていた昨日とは違って、ちゃんと彼女に合った靴を履いているというのに。
「はいはい、聖女さま」
俺は彼女の手を取り、一緒にアパートの階段を降りる。
ツェツィリーちゃんはにこりと微笑むと、すまし顔になって背筋を伸ばし、ゆっくりと小さい歩幅で歩き出す。
「聖女的な?」
「しきてんの うごき ……めんどうだった ふくも おもいし」
まあそうだろうなあ。
階段を降りると、聖女ムーブは終わりなのか、手を絡めてえへへと笑う。
「どこいく?」
「どうしようかねー」
ノープランで散歩である。ついでにツェツィリーちゃんが道をなんとなく覚えてくれるといいね。
朝の空気はまだ陽射しに暖められておらず、爽やかである。
武蔵小山は住宅地としては一等地と言える。
元々目黒乗り換えで山手線に出られる利便性は渋谷まで15分、新宿まで25分。目黒線が地下鉄と乗り入れたため、永田町も大手町も乗り換え不要。武蔵小杉で同じホームを並走する東横線に乗れば、横浜もすぐである。
何を言いたいかというと、7時台前半はそんなに人歩いてないんだよね。
出社するサラリーマンとかで混み出すのは8時前後である。
「あ、そうだ。ツェツィリー」
「ん?」
「昨日の朝のパンどうだった?」
「おいしかった」
「あれ買いに行こうか」
昨日の朝食で食べた食パンは『パン工房こみね』のやつ。あの店は確か朝6時からやってたはず。
「いく!」
ご機嫌なツェツィリーちゃんを連れ、そちらへと足を向けた。