聖女ちゃんあーんされる。
なるほど?うーん、気持ちは分かるけど。
スプーンを彼女の手からそっと抜き取る。
「とけちゃうからね」
球体となっているかき氷、その一番幅の広いところにスプーンの先を差し込んで持ち上げる。
新雪の粉雪の上に一歩を踏み出したかのような軽い感触。一方でコンポートのような果肉入り濃厚シロップの重み。
スプーンの上の輝く紅と白のコントラスト。
両手を机のへりに置き、きらきらとした瞳でスプーンに掬い取られたかき氷を見つめるツェツィリーちゃん。
「ツェツィリー?」
スプーンを手渡そうと柄尻側を向けるが気付きもしない。
くっ、こやつめ……。
俺はツェツィリーちゃんの桃色の唇の前にスプーンを運ぶ。
「ツェツィリー」
はっと目の覚めたような表情をしたツェツィリーちゃんがおずおずと口を開く。覗く健康的な白い歯。
ちょっと開けた口ではかき氷が入りきらない。彼女は恥ずかしげに大きく口を開ける。艶めかしく濡れる舌。
俺がゆっくりとスプーンを進めると、ツェツィリーちゃんは僅かに身を乗り出してかき氷を口に迎え入れた。
スプーンを通じて指が彼女の唇の感触を知る。
ツェツィリーちゃんはまず冷たさへの驚きに顔を見開き、爽やかな酸味と共に来る甘味に表情を蕩けさせた。
「んーっ♡」
果実の甘味は彼女にも親しみのあるものだろう。だが、ここまで糖度の高いもののはそうないのでは?
「すごい しあわせの あじ」
ツェツィリーちゃんはとても満足そうなため息と共にそう呟いた。
「それは何よりだ」
そうかそうか。良かったねぇ。
……だがなぁ、ツェツィリーちゃん。俺はもう一匙、かき氷を掬い、彼女の顔の前に差し出す。
「まだまだいっぱいあるよ」