聖女ちゃんはマスコットこわい。
周囲に聞こえないよう、ツェツィリーちゃんの耳元で囁く。
「魔物はいない」
彼女は頷いた。
「まもの ちがう…… なに?」
「うーん……リス?」
「りす…… わたしのしる りす ちがう」
まあ、うん。
うーん、見慣れちゃってるのであれだが、ちょっと顔が怖いのか?
目とか。歯とか。オスの方のリスのマスコットの手の開き具合とか。
そもそも、ツェツィリーちゃんがアニメやマンガのイラストとか見たことがないだろうしなあ。マスコット、なんて説明すればいいだろ。
「あれは、お客さん呼ぶための可愛い絵……」
「かわいい…… あれが」
ツェツィリーちゃんは困惑顔だ。
「おめめぱっちりで笑顔。丸っこい身体でかわいい仕草」
「じゃがん きば いかくの かまえ……」
言われるとちょっとそう見えて来るのが笑う。
とは言え武蔵小山ではよく見かけるからなあ。慣れて貰わないと。
「目が大きいのは邪眼っぽい?」
「めが たてに ながい」
それは確かに。
「そういう絵が多い、慣れよう」
「なれないと だめ?」
ツェツィリーちゃんが右手を繋いだまま左手できゅっと俺のTシャツの袖を掴んで見上げる。
くっそ、もう腕に抱き着かれてるような体勢ですね。
つい『慣れなくても大丈夫だよ』と言いたくなるが、いやいや世の中にどれだけマスコットやらマンガがあるのかと。
俺はツェツィリーちゃんの手をそっと外して財布を取り出すと、中からパルムのポイントカードを取り出す。
「だめだよ、うちにもいるもの」
同じマスコットキャラの描かれたポイントカードを渡されて、ツェツィリーちゃんは硬直した。