聖女ちゃんとスパゲティやさん。
道を眺めて信号のシステムを理解してもらい、26号線沿いを歩いていく。武蔵小山駅の近く、よく考えたらここ南側に交番あるな。
今は道の向かい、北側を歩いているから特にどうということもないだろうけど、今度から気をつけよう。
「ツェツィリーのいたとこって、パン以外に麺とかはあった?スパゲティとかラーメンとか」
「なまえ ちがう でも めん りょうり あった」
「麺料理どう?」
彼女は力強く頷いた。
「たべたい」
駅に近づくに連れて人も増える。やっぱりツェツィリーちゃん目立つよね。この辺りは外人さんも結構いるけど、どう見ても美人だしなぁ。
男だけじゃなくて、女性も注目している気がする。
26号線から駅前のロータリーに向かう道を折れる。駅前にたどり着く前に、スパゲティ専門店がある。雑居ビルの1階、うなぎの寝床みたいな長細い店『とすかーな』だ。
「ん、そうだ。ツェツィリーって文字は読めるの?」
「しんせいご ふくざつ かいわ できる よみかき むり」
んー、日本語は文字が複雑だよなぁ。というか神聖語と言ったか?
……まあいいや。先に店に入ろう。
「いらっしゃいませ!」
「2人。あいてます?」
「はい、カウンターの奥どうぞ!」
店の中を覗く。ランチタイムだが、ちょうど一番奥の席が空いているようだ。
店に入ると入り口側の4人がけの座席に座っていた男性客がツェツィリーちゃんを見てびっくりしたような顔をする。
彼女を俺の体で隠すように前に行かせて、カウンターの一番奥の席に座らせ、俺がその手前に座る。これで店の構造上ほぼ店員にしか顔が見えまい。
「注文はこっちでしちゃっていい?」
「おねがい」
この店のお勧めは『日本一おいしいミートソース』である。いや、本当に日本一美味しいのかは知らないけど。商品名が『日本一おいしいミートソース』なんだよね。実際美味しい。俺は別のにして味見させるか。
「ミートソースとアスパラベーコンの生クリーム。どちらもスープセットで」
ツェツィリーちゃんは俺の隣の客の食べている様子をじっと見ている。
「めんを まいて たべる…… むむむ」
そうか、麺料理あっても食べ方違うことはあるよなぁ。
耳元にそっと話しかける。
「やれそう?」
「じっせん あるのみ」
なぜ男らしいのか。