聖女ちゃんたくさんの車を見る。
武蔵小山の町は東急目黒線、武蔵小山駅から品川区側にアーケード商店街、『武蔵小山パルム』が伸びている。南側に向かって短く、東には長く。
東京で一番長いアーケード商店街であり、そこを中心に栄えている町である。
その東方向に伸びるアーケードの一本南の道は都道420号鮫洲大山線。だがこのあたりの住民は誰一人そう呼ばない。
通称である26号線と呼ぶのである。ちなみに何が26なのか、知っている人間はさらにいない。
2車線の決して広い道ではないが、バスの路線でもあり、車の往来は激しい。
京介はツェツィリーの手を取り、そちらへと歩んでいく。
「ふぇ」
車列が進んでいくのが目に入り、騒音が聞こえるようになると、ツェツィリーちゃんが身を固くした。
「大丈夫?無理はしなくていい」
ツェツィリーちゃんは頷く。
「だいじょぶ いく」
道へと出る。先ほど住宅地の細い道ですれ違ったような、歩くような速さで進む車とは違い、時速30kmくらいで走る車の列。
「ふぉぉ……」
歩道の端、家の側にツェツィリーちゃんを立たせてゆっくり歩き、武蔵小山に向かって歩いて行く。
「ひゃ!」
大きな音を立ててバイクが通り過ぎる。きゅっと握られている左手に力がこめられる。
「じどうしゃの こども……」
子供ではないが。
その後も大きなトラックやバスが通り過ぎると身をすくめていたが、段々と慣れてきたようだ。
赤信号で車が止まった時、ツェツィリーちゃんが声を出す。
「この せかい まほう ちがう わざ すごい」
「そうだね」
ふと思い浮かんで口にする。
「その技を科学技術って言うんだ」
ツェツィリーちゃんは真剣な顔で呟いた。
「かがくぎじゅちゅ……」