聖女ちゃん街並みを見る。
人気のない平日、住宅地の昼下がり。
ツェツィリーちゃんはきょろきょろと周囲を見渡しながら歩んでいく。俺たち現代人には当然の光景も、彼女にとっては珍しいのだろう。
「このまちは このせかいは ゆたか」
「ツェツィリーはどこでそう思う?」
彼女は少し考えて口にした。
「みち ほそうされる おぶつ ない いえ おおい でも ひといない?」
「人が少ないのは仕事に行ってる時間だからね。これから行くところはたくさんいるよ」
彼女が頷く。
「きょーすけ! あれすごい! おーさま すんでる?」
王様?
彼女が指差す先には家の向こうにそびえ立つタワーマンションがあった。
「王様は……このへんにはいないよ」
王様はいないよと言いかけて、良く考えたら天皇とかエリザベス女王とかいるなぁと思う。
「あれはお金持ちが住んでる」
「あれが いえ? あんなにおおきいのに?」
武蔵小山駅前は再開発でタワーマンションが建っているのである。確か40階建てとかで150m近い高さがある。
『パークシティ武蔵小山ザ・タワー』という割とそのまんまの名前の建造物は、近辺にこの高さの建物が無いこともあり、かなり遠くからでも目立つ。
「俺のいた部屋、1つの建物に同じような部屋があって、それぞれに人が住んでるの分かる?アパートって言うんだけど」
ツェツィリーちゃんは虚空に目をさまよわせ、考えながら言った。
「わかる あのへや とびら ない でも そとでたら とびら あった」
「そのすごいやつがあれ。でも1つの部屋がもっと大きい。
ツェツィリーもどうせならああいうとこに落ちれば部屋が広かったのに」
「おおきい へや いらない きょーすけのがいい」
そんなこともねーと思うんだけどなあ。
ツェツィリーちゃんは話し続ける。
「もともと きょうかいの へや すんでた せまい」
んー。僧房とかそういうやつかな。
「まおう たおす たびも やどや せまい おちつく
せいじょなって おしろ いった ひろいへや こまる」
ツェツィリーちゃんが聖女の2つ名に似合わず貧乏性である件。
「なるほどね」
ツェツィリーちゃんはこちらに向き直って笑みを浮かべて言った。
「それに あそこ きょーすけ いない きょーすけがいい」
……もー!なんだこのかわいい生き物は!