聖女ちゃんは説得される。
ツェツィリーちゃんは驚いたような顔をする。
「どうして…… わかりましたか? これいじょう ごめいわく かけられない」
ふん、やっぱりか。
「ツェツィリー、あんた分かりやすいんだ。ここを出て故郷へと帰る術を探そうとするのだろう」
「はい……」
俺は彼女に向けて指を2本立てた。
「2つ。ツェツィリーが思い違っている点がある。
だがその前に確認しておきたい。今魔法が使えないだろう」
ツェツィリーちゃんは再び驚いた表情をする。
「はい なぜ…… わかりましたか?」
彼女の服、横に置いたブーツと籠手に目をやる。
「ツェツィリーは魔界を長きに渡って旅をしたと言った。それならもっと汚れているはずだ。だが実際にはそれほどじゃない。
つまり、身体や衣服を洗浄・浄化する魔法が使えたはず」
彼女はこくりと頷いた。
「なら、なぜ俺の布団を泥と血で汚して申し訳ないと思っていたツェツィリーが、まだその魔法を使っていないんだ?
それは今、魔法が使えないからに他ならんだろう」
「きょーすけ かしこい……」
普通だ普通。指を1本立てる。
「魔法使えない、コスプレ外人か異世界人にしか見えない美少女が、無一文でここを出て故郷へ帰る道を探す?間違いなくその前に行き倒れるか捕まるよ。これが理由の1つだ」
「びしょうじょ…… もう1つは?」
「ツェツィリーの神様は、君に故郷に戻って欲しいと思っていない」
びくりと肩を震わせた。
「な なぜ……?」
「ツェツィリーが故郷に戻って、幸せになれると思っていないんじゃないか?
故郷に戻すことを考えるなら、もっとそういうのの研究に向いた……学者とか権力者の元に転移させた筈だ。俺はそういう職業じゃないし魔術師でも神官でもない、ただの平民だ。
俺みたいなとこに飛ばすよう神様が介入したというなら、それはなぜだ?」
ツェツィリーの大きな瞳の輪郭がぼやけ、涙が一条流れ落ちる。
ああ、いかん。ティッシュティッシュ。
「こきょう かえるより きょーすけのところ しあわせ でも めいわく……」
「迷惑じゃない。君がいてくれれば嬉しい」