聖女ちゃんじぇんぬ。
会計を済ませて『nemo』を出る。
バゲットはツェツィリーちゃんが持ちたがったので、彼女が小脇に抱えている。
朝の爽やかな空気の町を歩く、フランスパンを抱えた女の子。
陽光を反射させて朱金に煌めく髪。
まさにパリジェンヌじゃないか!
……パリじゃないけど。
武蔵小山だからムサシコヤマンヌ?いや、ンヌじゃないわ。ジェンヌは残せ。えーと、ムサコジェンヌ?
あー、でもムサコジェンヌは武蔵小杉だっけか。二子玉川のニコタマダムと多摩川を挟んで抗争を繰り広げているとか。
……いや、抗争はない。
「きょーすけ どした?」
ツェツィリーちゃんがくるりとこちらに向き直る。輝く髪がふわりと広がった。
「いや、なんでもないよ。ヘンなこと考えてた」
ツェツィリーちゃんがつつっと俺の横に来るとパンを抱えてない方の手で俺の手を取る。
「なあに?」
「バゲットを抱えてる姿似合ってて可愛いなって」
えへへーと微笑み、バゲットに頬ずりするようにパンを嗅ぐ。
「おいしそう」
「まだ朝食食べたばかりなのに」
ツェツィリーちゃんはそっと目を逸らす。お腹に手を。
「だ だいじょぶ でも うんどうも します」
俺ももうちょい痩せたいところだなー。
「一緒に運動しようねー」
「おー」
そして出たついでに駅ビル2階の『東急ストア』へ。
今日の昼はフランスパンだし、これに挟んだり塗ったりするものを買ってから家へと戻るのだった。