聖女ちゃん絵本を読みはじめる。
ぐるっと部屋を回った後、児童用のコーナーへ行く。
……こちら側は俺も来るのはじめてだな、そう言えば。
低い位置の本棚に、紙芝居や絵本が並んでいる。子供たちの視線の高さか。
俺は屈み込んで本棚を眺め、1冊を手にした。
有名どころで子どもたちが何度も読んでいるのだろう。ちょっと本が傷んでる感じのある『ももたろう』である。
「はい、ツェツィリー。この国で一番有名な童話かな」
「ほう……! も も ももたろう! ……どういういみ?」
「桃は果物の1種。太郎は男の子につける名前の1つ」
俺は表紙に描かれている鉢巻きを締めた男の子を指差す。
「この男の子が桃太郎という名前なんだ」
「ほー」
ここの床はマットのようなものが敷かれていて、子供たちが座ったり寝転んだり転んでも大丈夫なようになっていた。
俺たちは靴を脱いで並んで座る。ツェツィリーちゃんは俺の横にぴとりとくっつくように座り、絵本を広げた。
「……これなんだっけ」
「む」
「そうだった む か し むかし あるとこるに」
「あるところ」
「あるところに おじいさんと おばあさんが すんでいました」
ツェツィリーちゃんは俺を見上げる。
「あってるよ」
ふふと微笑んで本に向き直る。
「おじいさんは やまへ し ば かりに ……しばかり しばという まものを このかまで かりにいく?」
ついでに鬼も倒しそうだな、そのおじいさん。
「違います。えーと、焚き火とかに使う小枝とかを集めることだね」