聖女ちゃんと食パン。
俺はベッドの奥に脚を畳んで立てかけておいたちゃぶ台を引っ張り出して、その上に皿とコップを並べていく。
「つまらぬものですが……」
「いえいえ おいしそうです これなんですか?」
「これはパンです」
「そうなのですか? しかくいのですね」
……英語の教科書か。
わっといずじす?いっつぶれっど。おーりありー?
俺が考えているうちに、ツェツィリーちゃんは彼女の言葉で神に祈りを捧げている。
俺も頭を下げていただきますと呟いた。
彼女がパンを手でちぎる。
「やわらかい!」
青い目が驚愕にくわっと開かれる。
ちぎれたそれを口にする。
もぐもぐもぐ……ごくん。
「やわらかい!」
再び目がくわっと開かれる。
あー、外人は日本のパンは柔らかすぎるとか言うよな。
「お口に合いませんか?」
次のパンをもぐもぐしながら慌てたように首を振る。
「……おいしいです! でも とてもやわらかい びっくりした」
ほっとする。
俺も一口食べる。うん、おいしい。
「えーと、このジャムをつけて食べるとおいしいですよ」
と、テーブルの上のジャムを指し示して……。
ツェツィリーちゃんはパンの最後のひとかけを食べ終えんとするところであり、その言葉を聞いて悲愴な表情をする。
「えっと……パンもう1枚焼きましょうか」
彼女は顔を赤らめ、その顔を手で隠しながら言った。
「お、おねがいします……」
「ええ。トマト……その赤いのでも食べながら待ってて下さいね」