【魔王】蘇った魔王城
気がつたとき、ハヤは巨大で豪華な椅子に座っていた。
そして目の前には、驚いた顔で、こちらを見て固まっている人達。ハキは彼等の姿から何となく、殺人現場を調査している警官のようだ、と思った。
しかし、記憶が繋がらない。さっき自分のベッドで眠ったはずなのに……夢でも見ているんだろうか?
そんな中、一人が震える声で言った。
「ま、魔王様だ!」
その言葉を始めに、辺りから魔王様、魔王様、魔王様、と魔王コールが始まった。
ああ、とハヤは思った。
あれは夢じゃなかった。また帰ってきたんだ、と。
「魔王様が帰還されたのか?」
魔王コールが聞こえたのか、美丈夫の男性が部屋に入ってきた。アナスタシアの父ラミア卿だ。その後ろにはアナスタシアもいた。
「ああ! 魔王様! 必ずまた会えると信じていました!」
「え? ああ、ご、ごめん?」
アナスタシアが涙を流しながらハヤに飛びついてくる。ハヤとしてはここに来るまで夢だと思っていたので何となく後ろめたい。あと、父親の前で抱き着かれると少し怖い。
「魔王様、御帰還心よりお待ちしておりました」
だが、ハヤの心配を他所に、まさかのラミア卿が臣下の礼をとる。それに倣って部屋にいる魔族全員が膝をついた。
「……なんかあったの?」
ハキの記憶では、アナスタシア以外の魔族から魔王と認められていなかったのに、この変わり様である。戸惑うのも無理はないだろう。
「それについては、お話するより実際みていただいた方が早いでしょう」
ラミア卿が、立ち上がって、こちらに、と部屋の外へ出て行く。ハヤは首を傾げながらもアナスタシアと共にラミア卿の後を追いかけていった。
そして部屋を出て、ハヤは驚いた。
部屋を出た廊下は、黒を基準としているが、金銀財宝が散りばめられていて、すごい豪華な作りの廊下だったのだ。飾られている調度品も素人の目からしても凄い高い物なんだろう、と感じさせる物ばかりだった。廊下でこれなら、他の部屋も豪華なんだろう。そういえば、先ほどの部屋も豪華だった。一つでも自分の部屋に持っていければ、下手したら一生遊んでくらせるのでは? と思わせるほどには。
廊下を抜けて、馬車に乗り込む。馬車は街中を走っていく。
「ここは、王都だったのか?」
なら、さっきの建物は魔王城だったのだろうか? 自分が知っている魔王城とだいぶ違っていたが……。
ちらり、とハヤはラミア卿とアナスタシアを盗み見る。ラミア卿は腕を組んで無言で目を閉じている。そして何故かドヤ顔をしているアナスタシア。
とりあえずラミア卿には話しかけづらいので、アナスタシアに声をかける。
「なあ、オレがいない間なにかあった?」
「はい、魔王様がご不在になられて、三日。いろいろありました」
「え? 三日? オレ三日もいなかったの?」
そのとき、馬車が止まった。どうやら目的地に着いたらしい。
「着きましたぞ。さあ、こちらへ」
ラミア卿に連れられてきたところは、以前アナスタシアに連れられて、王都を見渡した塔だった。
最上階に行く。
そうして、そこから見渡したものは……。
「あれが魔王城なのか?」
それはハヤの記憶にある枯れた魔王城とはまったく違うものだった。黒く煌めく魔王城は力強く巨大で見る者を威圧する――正しく魔王城と呼ぶのにふさわしい城だった。
「魔王様、わたしは最初魔力を持たない貴方が魔王様であるはずがない、そう思っていました」
声はハヤの後ろから、ラミア卿が臣下として魔王に語り掛けてくる。
「しかし、それは間違いでした。魔王城は貴方を主と認め、誰もが見つけられなかった玉座への扉を再び開き、魔王城を本来の姿へと蘇らせた。貴方こそ我等魔族の王――魔王様でございます」
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