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魔王x勇者ツインズ  作者: オーケストラ
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勇者の日常

 勇者よ、勇者、わたしの勇者よ、起きなさい。

 まどろみの中で、女性の声が聞こえる。

 勇者よ、勇者、わたしの勇者よ、起きなさい。

「……あと、十分」

 勇者よ、勇者、わたしの勇者よ、起き……ろっていってるじゃろかあああああぁぁあああ!!」

「――うわっ!?」

 視界が暗転し、尻に奔る衝撃と痛みでアマキは目が覚めた。

 なんだ? と周囲を見渡すと、そこは見慣れた自分の部屋。そして、目の前で仁王立ちする母の姿。

「たく目が覚めた? 今日からテストで朝早く学校行くって言ってなかった? もういい加減起きないと遅刻するわよ」

 どしどし、と部屋を出ていく母。

 それを見送りながら、アマヤははっとして自分の身体を触って調べる。

 ……何処にも怪我はない。

「は、ははは」

 夢だったんだ。

「……疲れているんだな、漫画の見過ぎだな」

 さっさと制服に着替えて、部屋を出て一階に降りる。降りる途中で兄の悲鳴が聞こえてきた。どうやら今頃起こされたらしい。

 食卓について、朝食のパンを齧る。昨夜の変な夢のせいか、食欲がない。

「ああ、くっそ」

 兄が腹を擦りながら二階から降りてきて、食卓についた。

「……」

「……」

 特に二人の間に会話はない。

 食事の音と、テレビの音だけが食卓に響く。

 特別仲が悪いわけではないが、仲が良いわけでもないからだ。

「おい、随分青い顔してんな。朝から心気くせー。なんだ昨夜は怖い夢でも見たんかよ?」

 そんな兄が、突然声を掛けてきた。

 ドキリ、とする。

 兄にすべてを見透かされたような気がしたからだ。頭は悪くないが、兄はどちらかというと考えるより勘で動くタイプだ。昨夜の夢の事を話して少しでも楽になりたかったが、夢で体調を壊しているなんてしれたら馬鹿にされるのがおちである。

「ご馳走様」

 さっさと家を出て、学校に向かうべきだ、と思い、兄をおいて家を出ていく。

 だが、道行く人道行く人が、ぜんぶ夢に出てきた隊長の男に見える。

「っう」

 吐き気がして、口を押える。

 重症だな、とアマヤはふらふらになりながらも何とか電車に乗った。

 駅を降りた辺りから同じ制服姿の人がひらほら見えてくる。友達を会うのもこの辺りだ。

 何人かと会って、一緒に登校する。普段通りの日常だが、どうしてもアマヤは昨夜の夢の内容が頭から離れなかった。

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

「はい、これでテストは終わりですよ」

「………………………………っえ?」

 アマヤは絶句した。

 気づけば本日のテストが終わっていたからだ。

 ぜんぜん記憶にない。

「え? いつの間にこんな時間に?」

「うん? 何言ってんの立花。さっきのテストで終わりじゃん」

 時計を見ると 11時半。今日はテストの影響で午前中で終わるので、さっきのテストが本日最後のテストだったわけだ。

「……………ぜんぜん記憶にない」

「おいおい、大丈夫か? 今日お前少しおかしいぞ」

 アマヤはショックだった。

 この日のために勉強してきたのに、訳も分からない夢のせいで、こんな事になるなんて。

「今日は、もう帰るよ」

「……お、おおう。お大事に」

 ずーん、と身体に負のオーラを背負って、友人に見送られながらアマヤは教室を出た。

 はあ~、まさかこんな失態を犯すだなんて。

 アマヤは検事になりたかった。そのため、学校のテストでも全力で取り組む必要があるのだ。それなのに……。

 というより、本当にあれは夢だったのだろうか?

 夢としか考えられないが、夢なんてものは時間の経過でどんどん忘れていくものだ。なのに、いまだに鮮明に夢の内容を覚えている。あの殺される瞬間まで……。

 ぎゅ、と胸を握る。心臓がばくばくしていた。

「は、はは、夢以外考えられないじゃないか……」

 夢であるはずだ。夢でないとおかしい。まるで自分に言い聞かせるように夢だ、夢だ、夢だ、と心の中でつぶやく。

 そのとき、ふと人の気配を感じた。

 夢で見た隊長ケノン。

 まさか、と思い人の気配の方へと振り向く。

「――――っ」

 どこかで見て馬鹿面だった。

 いや、馬鹿面だったら自分もそうなってしまう。

 馬鹿兄だった、と言うべきだろうか。

「借りるぜ!」

「な、なにを?」

 馬鹿兄は突然眼鏡をひったくると、そのまあ校舎に駆け込んでいった。

 なんだ? と混乱しているとガラの悪い三人組みに囲まれた。

「てめー逃げるなんて良い度胸してんじゃねーかよ」

「今までの借り返させてもらうぜ」

「やっべって。オレ今ちょーやべって!」

「え? いやボクは兄さんじゃない。兄さんならさっき校舎に……」

「うっせ! 言い訳すんなや!」

 ああ、とアマヤは悟った。自分は身代わりにされたのだと……。

 結局教師が助けにくるまで、アマヤは何発も殴られてしまったのだった。


「兄さん、あれは何の冗談ですか?」

 夕方、アマヤは保健室で傷の手当を終えて家に帰った直後に、兄の部屋に怒りのままに突撃した。

 兄は、ベッドの上でのんきにバイクの雑誌を読んでいた。

 イライラする。

「兄さん!」

 バイクの雑誌を取り上げる。それで、ようやく視線がアマヤを見た。

「っち、うるせーな。何の用だよ」

「兄さんが、ボクを巻き込むからだろ。ボクの内申点に響いたらどうするんだよ。そうでなくても兄さんのせいでボクは苦労しているのに」

 今回の件で爆発したアマヤは日頃の鬱憤を兄に叩きつける。息を荒げながら、怒鳴るアマヤに兄は無関心だった。

「満足したか?」

「満足って……はあ、もういいよ」

 結局兄のは馬の耳に念仏だったらしい。もう関わりたくない、とばかりに部屋を出ていこうとする。

「おい、お前今朝からなんかおかしかったが、何かあった?」

 アマヤは信じられなかった。確かに今日の自分は少しおかしいが、兄に心配されるとは思ってもみなかったのだ。

 できるなら、夢の話をして、少しでも心の中を軽くしたいが、夢は夢である。それに夢の話をすると、どうせ馬鹿にされる。

 結局アマヤは口を開くことになく部屋を出て行った。


 夜が近づいてくる。

 どんどん心臓の音が激しく大きくなることが分かる。

 なんでだろう?

 分からない。

 でも頭の何処かで分かっているのだ。

 あれは、夢ではないことを。

 きっと気づけば、またあの世界に召喚されることになる。

 そうすれば、今度こそ殺されるかもしれない。

 殺されなくても魔王と殺し合いをさせらるのは間違いない。

「いやだ、いやだ、行きたくない、行きたくない」

 アマヤは恐怖に震えながら、ゆっくり目を閉じたのだった。

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